言語情報ブログ 語学教育を考える

6.湯川秀樹の中間子論文の価値(湯川秀樹の学習,研究,人となり)

Posted on 2010年1月2日

物理学の素養のない私には内容はわからないが,まわりから,伝記,解説書,同僚・弟子のことば,海外の研究者の評価,論文及び受賞演説の外郭等を何度も読み,考えているうちに,(錯覚かも知れないが)「中間子論」の価値が見えてきた。

その当時,原子核内の陽子と中性子との力の相互関係はまったく説明がつかず,量子力学が適用できない別世界とせざるを得ないかと思われて,平板な核内構造を云々するだけの状況であった。これを打破して,素粒子論を拓き,各素粒子の立体的な力関係を記述する標準理論へとつなげたわけで,これは大論文と言ってよいであろう。

内容としては,次の6点について,解決または次の論文で詳説すると説いている。
  1.相対性理論の要求を満たす新しい方程式
  2.原子核の大きさ程度の小さい領域だけで働く力
  3.電子の200倍の質量を持つ中間子の存在
  4.核子(陽子と中性子の総称)の間に中間子を交換することによって働く力
  5.中間子交換によるベータ崩壊理論
  6.中間子が見つかるとすれば宇宙線の中
この論文は,核力の相互作用解明への新たな素粒子論の方向を示して,この方面の研究の進展に大きな弾みを与えたものである。

従って,湯川秀樹のノーベル賞は10年に1本の大ノーベル賞であると言っても過言ではないであろう。続く朝永振一郎,南部陽一郎,小林 誠,益川敏英等の研究はすべてこの湯川の延長線上にあると考えてよいであろう。

この中間子第1論文の発表,執筆に際して,湯川は,非常に不安であった反面,「1種の中間子によって極微の世界の謎がいっぺんに解けると思った。」「あとから考えると不思議なくらい強い自信を持っていた。」と,のちに思い起こして「何と自分は単純素朴であったろう」と言っている。
(村田 年)

Comments (0) Trackbacks (0)

Sorry, the comment form is closed at this time.

Trackbacks are disabled.