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浅野:英語教育批評:『英語科教育法(改訂版)』を読んで

Posted on 2010年11月10日

(1)この書籍のタイトルは、『改訂版 新学習指導要領にもとづく英語科教育法』(大修館書店、2010)で、編著者 望月昭彦・著者 久保田章・磐崎弘貞・卯城祐司・荒井和枝・久保野雅史・山本敏子の諸氏である。かなり前になるが、私はこの本の改訂前の版について言及させてもたったことがある。1つには、類書にあまり見られない特徴として、第2章で、「英語の国際化と日本の英語教育」というテーマを扱っているからだ。英語の教科教育のテキストとしては、指導技術を説くことも大事だが、「英語とはどういう言語で、なぜ英語を学ぶ必要があるのか」を真剣に考える必要があると思う。

(2)私は前回のブログで、文科省は“外国語教育”という名称にこだわりながら、実際には“英語教育”を進めようとしているのは“言葉によるごまかし”だ、と主張した。文科省も、この書物の第2章をよく読んで、考え直してもらいたい。もちろん、問題は簡単ではない。“英語教育”を肯定したとしても、“どういう英語を”とか、“受容英語”と“発表英語”の区別をどうつけるか、といった課題が残る。指導要領では“標準的な(発音)”といった程度の言い方をしていて、“標準的な”の定義も曖昧なままである。

(3)本書では、第3章「学習指導要領」で、新しい指導要領の改訂された部分とその特徴を新旧対比させて解説している。それも大切だが、新指導要領の全文を付録に載せてもらいたかった。それと、「毎日の授業の根本となるべきものである」と言われるならば、指導要領の「法的拘束力」にも触れてほしかった。指導要領に準拠した授業をしないと、小中高の教員は処罰されるのである。安部元総理大臣が教育基本法に手を加えてから、教員の置かれている環境はさらに厳しくなったことなどにも配慮すべきであろう。

(4)第4章「学習者」は、英語指導に関連する諸理論を要領よくまとめてある。英語教員にとっても必要な知識だ。しかし、そういう知識をどのように英語の指導と結びつけるかは、難しい課題だと思う。第10章から第13章までは、“4技能”を具体的に扱っているので、もう少し相互参照があると初心者には親切なものになったであろう。それと、これはすべての章の内容と関係するが、今日の「日本人学習者の全体的な学力低下」の問題にも言及が欲しい。文科省の実施している「学力テスト」の方法、結果、公表の在り方なども社会的な関心の強い問題である。

(5)書評は“ないものねだり”になりがちなことを承知の上で、あえて希望を述べさせて頂いた。最初に述べたように、それもこの書物が類書に勝る特徴を有していると信じるからに他ならない。(浅 野 博)

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