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浅野:英語教育批評:「『ダーリンの頭ン中』を考える」

Posted on 2011年1月14日

(1)この漫画本は6年前のものだが、続刊が次々と出ていて、「ダーリンは外国人」という映画も上映されたとのこと。私は、漫画本はめったに読まないほうだが、「英語と語学」という副題に興味を感じて読んでみた(小栗左多里 & トニー・ラズロ著、メディアファクトリー、2005).英語学習、及びその指導上の問題点を指摘した真面目な内容である。ただし、A5版で 160 ページほどもあるが、英和辞書で説明すれば、2,3ページに纏められる程度のものだ。どうして、時間の無駄と思えるような漫画で解説しなければならないのであろうか。日本人の学力低下と無縁ではないのであろうという疑問を持った。

(2)まず“テンションが上がる”という日本語のコロケーションは正しいか、という問題提起がある。テンションは上がるのではなくて、“増す”とか“高まる”と結びつくのではないか、という議論が示されている。私の手元にある「日本語コロケーション」の辞典では、もちろん扱っていない。テレビを見ていて、芸人がいきなり大声で話し出すと、「あの人テンション高いね」などとよく言うから、「テンションが高まる」も言えそうだ。日本語については、こういう研究はとても遅れているのではないかと思う。

(3)音声学的な問題も取り上げてある。主人公の日本の少女がテレビの音声を消して、画面を見ていて気付くのだが、英語のネイティヴ・スピーカーは、「vの音を出す時に下唇なんか噛んでいない!英語の時間にはそうしろと教わったのに!」というわけである。[ f ] や [ v ] の音を出すときは、上の歯を軽く下唇に当てる程度で、噛むようなことはしない。しかし、教室の指導で日本語に無い音の練習をさせる時は、少し大げさにやったほうがよいと私は考えている。[ th ] の音もそうだ。舌の先が上の歯と下の歯の間から出るくらいにしたほうがよい。息が出にくかったら、少し舌先を丸めるようにしたらよい。

(4)定冠詞 のthe の発音も、英語教室で教える「母音の前では [ザ] ではなくて、[ジ] となるは正しいのか」という問題も提起されている。英語母語話者の主人公は、「そんなこと意識したことはない」と答えている。この問題は私がまだ、中学の英語教科書に関係していて、録音、録画教材を監修していた(1980年)頃に問題になったことがある。私は同行できなかったが、ビデオ作製でニューヨーク州に行った同僚から、「この地域では、母音の前でも [ジ] とは言わないそうですがどうしますか」という問い合わせがきたのである。結論として、「少し早目に話してもらって、そのまま録音しよう」ということになった。

(5)国内で録音教材を作る場合でも、”I have a pen in my right hand.” をゆっくり読んでもらうと、不定冠詞は [エイ] となってしまうのが普通だった。当時は録音教材を一斉読みのモデルに使っていたので、「なるべくスピードを遅くしてほしい」と要望されることが多かったのである。指導方法で改善できる問題と、あまり意味のない指導に時間を無駄にしている面があることを改めて意識させられる。今後も折に触れて言及させてもらうことにしたい。(浅 野 博)

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