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「自作教材の可能性と問題点」について

Posted on 2013年4月17日

 

(1)“教材”というのは、文字通り“教えるための材料”のことで、例としては、「教科書・副読本・標本・模型」などが挙げられます(『明鏡国語辞典』による)。しかし、中高の英語教員が、多忙の中でこうしたもの全てを自作するわけにはいきませんから、“何を自作するか”は慎重に考える必要があると思います。主要教材である検定教科書との関係も重視しなければなりません。

 

 

(2)「英語教育」誌(大修館書店)の 2013年5月号は、「教材をどう作るか・どう活かすか」という特集号になっています。上記の答を探るのに適した特集です。しかし、読んでみますと、執筆者によって、“自作教材”の考え方にかなりの差があるように思えます。これでは、新人教員には分かりにくいことになりますので、今回はそのことを考えてみることにします。

 

(3)最初の記事は、田尻悟郎(関西大)「自作教材を作って、使って、積み重ねていくには」です。田尻氏と言えば、かつて中学校での名人授業を実演されて多くの英語教員に感銘を与えた人で、私も直接に拝見したことがあります。大学の教員としても、英吾教員志望者を指導しているようで、大いに期待出来ます。

 

(3)しかしながら、田尻氏の記事は少し欲張り過ぎていて、かえって分かりにくいところがあります。例えば、“重要表現”の扱いでは、「既習表現と対比することはOK だが、混乱を招く可能性があるのならやめる」と説いています。[] Where does she live? Do you know where she lives? (提示方法は原文と異なります)。「こういう場合に、Do you know where does she live? が多数出現する」という指摘があって、「それならば、この表現の指導はやめる」と言っているように取れるのです。田尻氏の本心はそうではないはずですから、そういう誤解をされないように書いてもらいたいと思います。

 

(4)笹達一郎(群馬県立公立中学)「文法指導で使う教材をオリジナルで作る」は、ます“オリジナルで作る”という言い方に私は違和感を覚えます(他に“オリジナル”を使ったタイトルが3点ありますが、“独創的な/ に”がいいと思います)。笹氏の記事の内容は、日頃の指導方法がよく推測できる親切なものです。ドリルの問題を生徒にやらせて、出来た生徒は先生にそれを示すように指示しています。ただし、先生は出来ていたら、「クリア」と言い、出来ていなければ「ノットクリア」と言う、としています。テレビのクイズ番組では、「クリア」や「ノットクリア」はよく見かけますが、英語の教室では、”Cleared.” とか、”Not cleared.” と言ってもらいたいと思います。

 

(5)大鐘 雅勝(千葉市立稲毛中学)「教科書の教材を補完する工夫―本物の魅力を伝えよう」というタイトルも、「教科書の理解や応用を助ける教材」がいいと思います。“補完”は、「完全に補うこと」ですから、ここでは意味が強過ぎます。“本物”は、”authentic materials” のことだと思いますが、これは1980年代によく問題にされた用語です。例えばアメリカの風物を学ぶには、写真や録画教材も役に立ちますが、アメリカの家庭にホームステイして、アメリカ人の日常生活を経験する方が、印象や理解がずっと強くなります。

 

(6)大鐘氏は、録画教材や映画の利用までを論じていますが、私が気になるのは、版権の問題です。例え教育目的であっても、音楽などは版権がとても厳しいですから、用心するに越したことはありません。教え方や説明の仕方に独創性を発揮することは結構ですが、版権の問題にも言及して欲しかったと思います。(この回終り)

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