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「英語教育批評」(その75)(“英語の常識”の再考)

Posted on 2013年7月31日

(1)「英語教育」(大修館書店)の2013年8月号は、「クイズで確認―知っておきたい英語の常識」を特集しています。英語教師にとって、何を、どの程度知っていることが必要かを厳密に決めることは容易なことではありませんが、「この程度は常識ですよ」と示すことは無意味ではないと思います。

 

(2)最初の記事は、町田 健(名古屋大学)「辞書に載っている一番長い単語は?」ですが、「記事全体では、これが“常識”かな?」と疑問に思う人も少なくないのではないでしょうか。私などは、第2次大戦中に旧制の中学生でしたが、2年生の頃、先輩から、「“smiles” が一番長い単語だよ。“s” と“s” の間が1マイルも離れているのだから」と教わったものです。これなどは、どうでもよい冗談話ですが、生徒は結構喜ぶものです。

 

(3)町田氏の記事では、そういう話ではなく、映画『メアリーポピンズ』で使われた34文字の単語(呪文のようなもので無意味)を紹介したり、45文字の医学用語を挙げたりしています。こんな単語を“常識”だと言われても読者としては戸惑うばかりです。もっと中高生にも使えるような“常識”を示して欲しいと思います。

 

(4)田中茂範(慶応大学)「[ 時制・冠詞・動詞の使い分け] an angry Obama と言えるか?」も英語学習の初級者には極めて難しい問題です。最初の例は、遊びに行った子供がやっと帰って来たので、親が「心配していたのよ」と言うような場合の応答として、「ごめん、ずっと公園でサッカーをしていたんだ」と言いたければ、「次のどれが適切でしょう?」という問題になっています。

① Sorry, I was playing soccer in the park.

② Sorry, I’ve been playing soccer in the park.

③ Sorry, I played soccer in the park.

 

(5)田中氏の解説では、② が正解となっていますが、私は① が適切だと思います。子供の年齢にもよりますが、“Sorry I’m late for dinner, Mom. I was playing soccer in the park.” (お母さん、夕飯に遅れてご免なさい。公園でサッカーをしていたので)などと言うでしょう。現在完了進行形では、家に帰ってもサッカーをしているような状況になってしまいます。

 

(6)脇山 怜(元東洋学園大教授)「英語で『電子レンジでチンする』は?」は、英語そのものは決して易しくはないですが、生徒にとっては日常生活で聞いたり、使ったりしている表現だけに、「それを英語で何と言うか」には興味を持つ者が少なくないと思われます。しかも、こういう英語はいつまでも覚えているものです。

 

(7)奥津文夫(和洋女子大名誉教授)「First State とはどの州のこと?」も、生徒が関心を持ちそうな話題を提供しています(正解は Delaware )。「Bill は次の何という名前の愛称でしょうか?」(William/ Benjamin/ Richard)という問題から(正解は William)、英米人の名前の由来を少しずつ学ぶことも意義のあることと思います。以前にも言いましたように、こういう知識は、生徒の興味や関心、学力に応じて、少しずつ与えること、「テストに出すぞ」などと言わないことが大切な配慮です。

 

(8)記事の数が多いので、後は割愛させて頂きますが、音声学、英米文学、などかなり専門分野に属する記事もあります。編集者へのお願いとして、小中レベル、高校レベル、高校大学レベルなどに程度を分類して提供してもらえると、もっと利用しやすい特集になったであろうと考えます。(この回終り)

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