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日本語は悪魔の言葉か?(3)の1

Posted on 2014年8月1日

漢字は悪魔の文字か? 日本語は悪魔の言葉か?

 

終戦後すぐにアメリカから派遣された教育使節団の「報告書」には次の文言が見られる。「書かれた形の日本語は、学習上の恐るべき障害である。日本語はおおむね漢字で書かれるが、その漢字を覚えることが生徒にとって過重な負担となっていることは、ほとんどすべての識者が認めるところである。初等教育の期間を通じて、生徒たちは、文字を覚えたり書いたりすることだけに、勉強時間の大部分を割くことを要求される。」

 

「一般に、現代の問題や思想を扱った書物を理解することはできない。とりわけ、彼らは、読書を学校卒業後の自己啓発のための手軽な道具とできる程度に国語を習得することには、一般に成功していないのである。」

 

漢字の難しさが社会の民主的な発展を妨げていると主張しているわけだが、これに対して、日本側の「日本教育家の委員会」は反論するより、積極的に賛成したようである。委員は29名で、大学学長、高校長、官僚、新聞社・出版社・企業のトップの中に天野貞祐、小宮豊隆、高木八尺、南原繁、柳宗悦等の名が見える。

 

「漢字を廃止するとき、われわれの脳中に存する封建意識の掃討が促進され、あのてきぱきとしたアメリカ式能率に初めて追随しうるのである。」といった調子の「讀賣新聞」(当時は「讀賣報知」)の「社説」の文言は、当時の日本全体の雰囲気をよく反映していると思われる。

 

熱しやすく冷めやすい、優柔不断な国民性・文化のためか漢字を捨てることなく、問題を棚上げにしたまま、今日にいたっている。(「当用漢字」というのは、当分の間の用のための漢字、どのみちやがて全廃するので、といった含みがあったようだ。)

 

私は、漢字こそ日本が近代化を促進し、工業国にのし上がり、先進国の仲間入りができたもとであると思っている。漢字の優れた点、日本語との相性の良さを見ていきたい。(もちろん漢字使用の短所はわかっているつもり。)

 

1.漢字の造語力

 

漢字2つを組み合わせて単語を作ると、改訂常用漢字2136字の組合せで、2136×2136=4,562,496、すなわち、456万語の単語が作れる。意味をなすものが20%としても90万語以上の単語を作れる可能性がある。漢字の場合、自由に単語が作れる豊かな造語力を持っているのだ。

 

英語の場合は、大辞典には55万語ぐらいの見出し語があるが、1語の単語で見出し語になっているのは10数万語にすぎない。すでに1語の単語を作る造語力は豊かではない。2語以上の単語、前置詞つきの単語もたいへんに多い。

 

英語では、ひとつのことばが長くなるので、その頭文字を取って作るアクロニム(頭字語)が大いに流行っている。例えば、OECD、これは Organization for Economic Cooperation and Development(経済協力開発機構)の頭文字を取ったものである。これはまったく意味とつながりがないので、1つずつ覚えなければならず、漢字よりもはるかに覚えるのがたいへんだ。

 

アクロニム25万語辞典といった辞書も出ている。大学生の間でも大はやりで、「WACN」(=Wait at Cafeteria North, 北食堂で待つ)などといった掲示があったりする。

 

日本語の場合は短い単語を作る余地は無限にある。これがいっぽうでは意味を難しくし、同じ発音の語をさらに増やすことにもつながっているのであるが。

 

2.明治以降の翻訳語

 

江戸時代においても漢語は使われていた。中国から伝わってきた事物は、そのまま漢字を当てていたが、その数はそれほど多くなく、また取り入れのスピードはゆっくりしていた。

 

ところが、明治になると、西洋の事物の流入と、翻訳により、漢語は飛躍的に増加した。最初は和語に対して2:1、やがて漢語は半分になり、今やIT化や新しい事物の大量の流入により、さらに急激に増え続けている。

 

意味さえある程度合っていれば、読みはどうでもよかった。その結果読みにくい単語や、同じ発音の単語が多くなっていった。例えば、日本語で「コウ」と読む漢字は「高、好、考」など300以上もある。

 

漢字2字の単語でも例えば「コウセイ」は30もの異なる単語がある。そのうちの、構成、厚生、校正、攻勢などかなり多くの単語をだれでも簡単に使い分けでき、聞いてわかる、読んでわかるだけならさらに多くの単語に対応できる。それゆえわれわれは、同音異義語に違和感を持たなかった。

 

この漢語、加えてカタカナ語のおかげで、工業技術の進歩、服飾、食事・食品などの急激な変化にも、簡単に該当する単語を作ることによって、難なく対応してきた。

 

(つづく)

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