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日本語は悪魔の言葉か?(3)の2

Posted on 2014年8月11日

3.音読みと訓読み

 

日本語の場合、借りてきた漢字を、そのまま音読みするとともに訓読みもした。例えば、「返事」(ヘンジ)を取り入れても、「返り事」(カエリゴト)もそのまま使い、「返る」「事」も使われた。すなわち、訓読みも漢字を当てて、相変わらず用いたために、もともとの和語がすたれて減っていくということはなかった。

 

ところが、朝鮮語、ベトナム語などは、中国語と同じく訓読みがほとんどない。それゆえに漢語の取り込みにより、もともとの単語がすたれて、なくなっていくことになった。

 

仮に日本語の例で説明すると、「山」を取り入れると、これは「サン」としか読ませない。もともとの「やま」には漢字を当てない。「山」が「富士山」などの語の一部として用いられるばかりでなく、独立に「ヤマ」の意味で「山」(サン)が使われるようになる。するといつの間にか「やま」の方がすたれて使われなくなる。

 

このようにして、朝鮮語でもベトナム語でも、本来の語が少しずつ消えていった。「はたらく」がだんだん使われなくなり、代わりに「労働する」という動詞ができる。このようにして漢語が70%を超えて、朝鮮語にもベトナム語にも危機感が生じた。

 

われわれの日本語においても漢語が70%を超えつつあると思われるが、本来の和語が減ってないので、危機感を抱く人はほとんどいないだろう。

 

4.日本語をローマ字化したら何が起こるか

 

ローマ字化が始まると、間もなく、同音異義語のうちのいくつかが消えていくだろう。

 

上で挙げたが「コウセイ」と発音する単語は日本語には30語もある。読みにおいて大人はこの30語がほぼ読めるし、意味の区別もわかる。が、これをローマ字にした場合、前後関係から何語ぐらい判別できるか。おそらく12,3語は大丈夫であろう。

 

なぜ「kohsei」を見て、コンテキストから12語も区別できるのか。それは「kohsei」を見て、前後関係から、例えば「構成」という漢字が頭をよぎるからだ。書く場合は頭をよぎる漢字はより少なくなる。「構成、校正、攻勢、厚生、更生」など7語ぐらいが頭に浮かび、使えたとしよう。これらはいずれも漢字が頭をよぎるからなのだ。ちゃんと書けなくても、大体の形が頭をよぎるだけでいいのだ。

 

ローマ字教育が進み、漢字を見なくなると、だんだん漢字が瞬時に頭をよぎることがなくなり、この区別ができなくなる。30語もあった豊かな語彙が4語になり、漢字を知らない子が増えるにつれて、3語の区別も難しくなってこよう。このようにして日本語の語彙はどんどん貧弱になってくると推察できる。

 

5.韓国の文字政策 ― 漢字を捨ててよかったか?

 

韓国では長い間、漢字を捨ててハングルだけでいくか、ハングル中心だが漢字も補助に用いていくかの論争が続いた。そしてついに、1970年に小・中・高のすべての教科書から漢字を削除した。

 

するといろいろなことが起こった。小学生の国語力が大きく落ちた。そればかりか他の科目の学力も落ちた。抽象的な表現の多くは漢語で表していたので、抽象的な表現や論理的な表現力が落ちてきたと言われた。

 

政府は1975年に中学で900字、高校で900字の教育用基礎漢字を制定した。しかし、これは選択科目の教科書において、ハングルに( )付けで添えるだけであった。

 

もうハングル化を止めることはできなかった。その結果「韓国」と書けない大学生、「現在、基本、統一」といった基本的な抽象名詞が読めない大学生が増えて、語の意味がぼんやりとしかわからないようだとの批判が聞かれるようになった。子供の将来を恐れて、教育ママは自分の子を「漢字の塾」に通わせたりしているといった情報も得ている。

 

(つづく)

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