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「『英語教育』誌(大修館書店)批評」(その13)(活動アイディア集)

Posted on 2014年9月30日

(1)「英語教育」誌(大修館書店)2014年10月号の特集1は、「教室が元気になる活動アイディア集」です。指導法が効果を発揮するためには、幾つかの条件があります。①クラスサイズが適正であること、②指導教員の経験が豊富であること、③他の英語教員との協力体制があること、などが考えられます。「“新米教員”の場合はどうすればよいのか?」といった疑問が生じると思いますが、それこそ、学校全体の協力が必要になる場合でしょう。“過疎化地域”のような場合は更に広範囲な地域協力が重要になってきます。

 

(2)最初の記事は、鈴木 寿一(京都外語大)「『活動』の計画・実施の際に考えるべきこと」です。鈴木氏は、「学習目的の活動」と「コミュニケーション目的の活動」を区別して考えているようですが、私は必ずしも同意出来ません。“コミュニケーション活動”の中にも、学習目的が含まれることもあるでしょうし、学習活動の中にも、相手に自分の意思を伝えようとする活動が含まれることがあると考えるからです。全体的には丁寧な説明で、分かりやすく書いていると思います。

 

(3)次の久保野りえ(筑波大附属中)「活動の考案から実践まで」は、「自由度のある少し高度の学習と、過去形の暗記のような具体的な基礎練習をうまく組み合わせたい」という趣旨のもので、私も同感です。1つ気になったのは、他の記事が2ページなのに(最初の記事は3ページ)、ここは1ページなのは編集方針としては不公平ではないかという点です(1ページの記事は他にも3編あります)。

 

(4)今西 竜也(京都教育大京都附属小・中校)「オーラル・インタープリテーションを取り入れたスピーチ活動/ 英語の歌」は、欲張った題ですが、“ねらい”も結構程度が高くて、“単調なスピーチからオンリーワンのスピーチへ”とあります。もちろん、そういう指導が可能な学校があるとは思いますが、“一般的に可能な状況”とは言えないでしょう。「英語教育」誌の啓蒙的な役割も意識して欲しいと思います。

 

(5)川渕 弘二(奈良市立平城東中)「ペアワークによる Q & A/ スピーチを聞いて自由英作文」も欲張った題ですが、日頃実践していることを報告するのであれば止むを得ないことは分かります。「音読練習をする場合も、それだけが目的になるのではなく、後のコミュニケーション活動に繋がる練習であるべき」といった趣旨の主張も分かります。しかし、指導用の専門用語を次から次ヘと使いながらの説明は、ベテラン教師でも戸惑う場合があるのではないでしょうか?英語教育の初心者も視野に入れた書き方をして欲しかったと思います。

 

(6)柏村みね子(東京都文京区立音羽中学)「メッセージを届けよう!――Our Voices to the World――」は、生徒による平和へのメッセージを韓国の中学生と交換することの実践報告です。日本の敗戦後10年ほどで、私はある県立高校の英語教師になっていましたが、クラブ活動として英語で文通することが盛んでした。その際は、高校生でも実力以上の英文を書こうとして、基礎的な練習がおろそかになる危険性を感じました、そういう懸念にも言及してもらいたいと思いました。

 

(7)立花 桜(兵庫県三木市立三木東中学)「クリエイティブ・ライティング/ 代名詞へのアプローチ」は、“クリエイティブ・ライティイング”と“代名詞へのアプローチ”という組み合わせが奇妙に感じられました。記事では、それぞれの実践方法を図解と写真で具体的に解説してありますが、あまり能率的な学習方法ではないように私には思えます。

 

(8)山口 均(大阪府貝塚市立第二中学)「日常的に使える協同学習の課題」は、教科の枠を超えて、学校全体で同じような指導方針と方法を実践している学校からの報告です。そういう学校もあっていいとは思いますが、各教科の特色は軽視してはならないと思います。“生徒同士による文法ルールの説明”の例が示されていますが、とても時間がかかり、能率が悪いように思います。

 

(9)藤田 義人(秋田県立横手清陵学院中学)「リスニングをベースにした技能統合タスク」は、“4技能”を統合するための方法論ですが、中学生であれば、中学終了の段階でやっと少しは可能になることで、学習段階で目標にするのは逆効果にならないか、と私は心配します。

 

(10)武田 富仁(群馬県立板倉高校)「『学び直し』の学校での授業の活性化」―生徒の自尊感情に配慮した活動」では、まず「“学び直しの学校”とはどういうものか」を理解する必要があるでしょう。私は、大学や専門学校での“成人の学び直し”のことは知っていましたが、そういう高校があることは知りませんでした。最近は、学校制度が多様化していますから、“学び直しの高校”については、これだけで、特集を組む必要があるように思います。写真や図解などを加えての親切な記事ですが、2ページでは全体像を理解するには不十分だと思います。この号では、「<文部科学省で検討中の「小学校英語教育の改革」に対する提言>について」という英語教育学会の主な責任者による提言」を掲載してあるのです。これこそ、特集として取り上げて欲しかったと思います。

 

(11)山口 朋久(滋賀県湖南市立石部中)「要約活動への段階的指導」は教科書本文の要約を目標に、その方法論を説いていますが、わずか1ページでは意を尽くしにくいと思います。編集部の責任でしょうが、どうして今回の特集記事はページの割り当てばらばらなのでしょうか?

 

(12)東村 広子(埼玉県所沢市立所沢中)「立体的に読む活動」は、“立体的に読む”とは何だ?と不思議に感じて、“立体プリンター”で何か作るのかと思いました。記事では、5時間くらいかけて、グループ学習をさせて、教科書の読みを深める手順を説いていますが、そんなに時間の余裕があるのだろうかと心配になりました。ここも割り当ては1ページです。

 

(13)池田 あゆみ(京都光華中)「ポスター形式での国紹介」は、生徒によるプレゼンテーションの実例を述べたものですが、1ページの中では要領よく解説してあります。ただし、英語の時間数や教員数など全体像が分からないと、単なる“高嶺の花”になると思います。

 

(14)特集2は、「発足!スーパーグローバルハイスクール」ですが、自民党の“話せる英語教育を”という政策の一環としての制度の変更です。2校の実践報告がありますが、どういう問題点があるかも指摘してもらいたかったと感じました。多くの国民が知らないうちに、制度だけがどんどんと変わってしまうのは決して望ましいこととは思えません。(この回終り)

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