言語情報ブログ 語学教育を考える

サッチャー教育改革の功罪(3)

Posted on 2014年11月18日

●自民党・民主党の英国への教育調査団(2)

 

(4)歴史認識と偏向教科書の問題

自民・民主両党の議員諸氏は、教科書、特に歴史教科書の偏向の是正に大きな関心があった。旧教育基本法には、日本の歴史、伝統、文化、あるいは家族の結びつきといった大切なものがなおざりにされている。

その結果、従軍慰安婦問題、南京大虐殺、侵略戦争などが強調され過ぎた歴史教科書が広く使われ、日本の教育が偏向していると考え、なんとしてもこれを正さねばならないとした。

 

イギリスでも同じことがあって、『人種差別はどのようにイギリスにやってきたのか』と題する教科書がイギリスの植民地支配の残虐性を強調し、イギリスを「人種差別に満ちた

侵略国家」と非難し、国旗、キリスト教、君主制に対する激しい憎悪を生徒に対して煽っていた。そういった日本と同じ問題をサッチャーさんが、一連の教育改革とからめて、見事に解決した実情をよく視察してきたという。

 

偏向教科書を排除し、バランスの取れた歴史記述にすべきだという点に議員のみなさんは重点をおいているようで、この問題は報告書に何度も登場する。

 

「大英帝国が植民地主義、人種差別を生んだ」という自虐的な風潮が支配し、イギリスは退却する国、秩序ある衰退を望むべきだと高級官僚でさえ語る始末であったが、サッチャーさんは違っていた。

 

サッチャーさんは、この偉大な国のエトス(魂)を取り戻そうと決意した。つまり節約、自制、責任感、自分のコミュニテイに対する誇りと義務感といった伝統的な道徳的価値を評価するとした。世界帝国を築いたマイナス面を強調するだけでなくて、自国の歴史の持つ誇りある面をも強調したい、ビクトリア朝の精神こそイギリスを立ち直らせるものと彼女は確信した。

 

そして、フォークランド紛争においては、スエズ運河紛争とは違って、見事に勝利を勝ち取った。これで母国を、政府を見る一般庶民の目が違ってきた。

 

これが日本の議員さんたちはひどく気に入ったようだ。日本でも一般庶民の母国を見る目を変えたい、日本の歴史に誇りを持って見てもらいたいとの願いらしい。

 

大英帝国時代の世界に対するイギリスの貢献に焦点を当てた歴史教育、すなわち、大英帝国史の復活こそ望まれるという風潮が高まってきたという。

 

明治から昭和にかけての輝かしい日本史を見直す格好の後ろ盾ができたと議員たちは喜んだようだ。

 

(5)統一試験

イギリスの場合、教育政策は徹底していた。到達度を見るテストは、すべて学校ごとに順位づけられ、それが新聞各紙に16ページあるいは20ページにわたって発表され、親はそれを見て、わが子の入学先、転校先を決めることができる。予算は生徒数によって配分される。悪かった学校には責任を取ってもらう、校長だけでなく、教員にも責任は及んだ。

 

調査団は、この統一試験に注目した。日本でも全国的な学力テストを行い、その達成度を発表し、各県に、各市に、各学校に競わせることを考えながら視察したようだ。

 

全小学校、中等学校に順位をつけて発表する、その効果と影響について、詳しく視察している。

 

(6)教育水準局 ― 「教育困難校」の扱い

調査団は、統一試験と水準局の査察の結果判明した「教育困難校」の扱いに注目した。校長の交代、教員の入れ替え、予算的な支援等を行う、あるいは廃校にする、といった徹底的な事後処理を視察した。

 

イギリスの場合、専門の部局を持ち、十分なスタッフを揃えて、きめ細かく査察を行い、事後処理がきちんとなされていた。日本の場合は、指導要領はあるが、それが守られているかどうかの検査は十分にはなされていない、ほとんどなされていないと言っても過言でないと議員たちは見ていた。

 

報告書:

英国教育調査団編『サッチャー改革に学ぶ教育正常化への道 ― 英国教育調査報告』 PHP研究所.2005.

 

(つづく)

Comments (0) Trackbacks (0)

Sorry, the comment form is closed at this time.

Trackbacks are disabled.