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「『英語教育』誌(大修館書店)批評」(その15)(“くりかえし”の授業)

Posted on 2014年11月26日

(1)2014年12月号の特集の1つは、「どんな生徒にも優しい『くりかえし』のある授業」です。私はこのタイトルで、2つのことが気になりました。1つは、“優しい”という表記です。“易しい”であれば、“生徒に分かりやすい”という意味に取れます。では、“優しい”はどういう意味なのでしょうか?

 

(2)『広辞苑』によれば、①恥ずかしい、②周囲に気をつかって控えめである、③相手が優美で、こちらが恥ずかしいおもいがする、④素直である、といった趣旨の説明が例文と共に示されています。しかし、どれが今回の特集の場合に適切なのかを決めるのに苦労します。『明鏡国語辞典』ですと、“地球環境に優しいソーラーシステム”いう例があります。これは分かりますが、どうして“どんな生徒にも分かりやすい”のような言い方をしなかったのかという疑問は拭えません。

 

(3)もう1つの疑問は、“そんなに繰り返し教えることが出来るほど、英語の授業は余裕があるのでしょうか?”という問題ですが、とにかく記事を読んでみることにします。最初の記事は、大塚 謙二(北海道壮瞥町立壮瞥中)「生徒に自信と気づきを与える『くりかえし』授業」です。実践報告としては、丁寧で分かりやすく説いている記事だと思いますが、「そこまで欲張って、時間は十分に足りるのだろうか?」と心配になりました。これは以下のどの記事についても言えることです。

 

(4)北原 延晃(東京都港区立赤坂中)「1年生1学期に戻る『くりかえし』の文法指導」は、最初に、「この学校では英検準2級の取得者が、3~4人に1人はいる」とのことで、能力に恵まれた生徒の多い学校だと分かります。文法指導と言っても、文法用語を使っての説明ではなく、I play soccer.→You (play) soccer.; He plays soccer. →He (doesn’t) play soccer. (形式は原文と少し違います)のように、適語を次々と入れさせるような練習をさせているのですが、こういう具体的な練習は有効であろうと私は思いました。

 

(5)渓内 明(東京都文京区立第八中)「教科書をくりかえし扱い、reproduction につなげる」は、①教科書の内容を日本語でよく生徒に説明する、②理解できたならば、音読をさせる、③暗唱できるようにさせる、④本文の内容の要点を示す絵を用意して、教師が途中まで言って、残りを生徒に言わせる、といった手順を示しています。“音読”に関しても、きめ細かく手順を示していますので、その指導方針には同意出来ます。

 

(6)次は、脳科学や認知心理学の話に飛びますので、順番を変えます。田邉 玲(埼玉県教育局西部教育事務所 指導主事)「上手なくりかえしで小テスト波及効果を仕組む」は、“小テスト”の実施方法、特に“単語テスト”の実施方法について述べているものです。細心の注意を払う姿勢には賛同しますが、あまり頻繁にテストを実施して、生徒が「単語さえ覚えれば」といった印象を持たないかと心配になりました。

 

(7)「効果的な『くりかえし』の3原則」は鈴木 渉(宮城教育大)とJeong Hyeonjeong (東北大学加齢医学研究所研究員)(漢字転換に手間取りますので、ローマ字表記にさせてもらいました)は、“くりかえし”を行う場合の理論的な根拠を論じています。副題には、「脳科学、認知心理学、第二言語習得研究の成果から」とあります。これだけでも、特集を組む必要のある大きな課題だと思います。用語の説明はなされていますが、提案されている“3原則”を実践するのは、やはりかなりの時間を要することだと思いました。

 

(8)川原 純子・塩島 梨奈(神奈川県横浜市立南高校)「生徒の『発信力』をつけるラウンド型シラバスのよる授業展開」では、まず“ラウンド型シラバス”とは何だったかなと考えてしまいました。この記事を読んで少し思い出しましたが、「ボクシングの試合で、ラウンドごとに点数を付けて、優勢か、劣勢かを判定するようなもの」といった譬えをしてくれれば、もっと分かりやすかったであろうに、と思いました。執筆者は、「英語教育」誌の啓蒙的な役割を忘れないでもらいたいと思います。

 

(9)山口 和彦(山形県立山形西高校)「スピーク・アウト方式でのくりかえしで総合的な英語力を高める」は、“スピークアウト方式”が、いかに効果的かを数値で示していますが、基本的な問題として、私には同意しかねる点があります。単語の例で言えば、①見れば意味は分かる、②正しく発音出来る、③自分の文で使うことが出来る、のように、幾つかの段階が考えられます。執筆者は、“スピークアウト”をどういう意味で使っているのでしょうか?普通の英和辞典では、”speak out”=speak up (大声で話す)としています。

 

(10)幸前 憲和(大阪商大高校)「ラウンド制聴解・音読授業で言語材料の内在化へ」も理解しにくいタイトルです。“ラウンド制”については最初に解説してありますが、日本語または、発話のキーとなる表現を書いたカードをフラッシュさせて、英文を言う練習をさせることのようです。示されてあるように、パソコンの場面を利用すれば、さらに能率的でしょうが、生徒の能力差が大きい場合などへの配慮にも言及して欲しいと思いました。“言語材料”とか、“内在化”といった用語も定義してもらいたいものです。

 

(11)特集2は、「センター入試目前!『速読』の仕上げ指導」です。入試に限らず、長文を出来るだけ速く読める能力は養成する必要があると思います。“速読”と言うのであれば、まず日本語の速読の力をつけるべきだと思いますが、そのためには、国語教育の協力を得なければならないでしょう。世間の姿勢が、「英語教育には厳しいが、国語教育には甘い」というのは、私だけのひがみでしょうか?英語の検定教科書は語数やページ数が制限されていて、“速読訓練”などやれっこないと私は思うのです。

 

(12)私は、加古 徳次『奇跡のスーパー速読法』(NON Book,1985)という本で速読に挑戦したことがあります。要は、考え方や発想が自由にできるように頭脳の訓練をすることで、一般的に言って、日本の高校生が英語でやれるような生易しいものではないのです。高校生が自分で読みたい英語の本を見つけて読み始めたならば、上出来とすべきだと思います。今回の特集は、1も2も欲張り過ぎていて、英語教育の守備範囲をはるかに超えたものになっていると思います。(この回終り)

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