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サッチャー教育改革の功罪(付録)1/2

Posted on 2015年1月6日

●日本における教育、そして教育改革(1)

 

●(1)学力調査結果の公表―おろかなり!サッチャーさんは日本に学べと教育改革を行ったが、今度は、日本がサッチャー改革に学んで、全国学力テストを復活させたばかりか、イギリスが失敗したとして、縮小しつつある、悪名高いテスト結果の公表をイギリスに学んで公表するという。

 

このテスト結果の公表がどれほどイギリスの教育を混乱させたか、ちょっとそれを調べただけでわかるものを、地方教育委員会、文科省はおろかとしか言いようがない。(安倍晋三氏も中心となった視察団は、イギリスのテスト順位公表を高く評価している。おかしいです!!)

 

すでにイギリスでは、スコットランドも北アイルランドもウェールズもやめてしまって、イングランドでさえ、公表の仕方を変えつつある。いったいどんな形で実施するつもりか。

 

●(2)日本の教育の特徴 ― 訓練主義

日本の教育の特徴は、大ざっぱに言えば、全国一律に、知識の体系を計画的に、効率よく、一斉指導で教え込むこと。訓練的学力観に立っている。

 

比べて、フィンランドなどでは、「生徒中心主義」を取り、生徒がそれぞれ自分で目標を決めて学習していく。社会に出て自分の判断で生きていける人を作る。すべての学習は将来の生活につながる。教師は支援者だという。

 

このような生徒に勝手にやらせておく教育がどうしてフィンランドで成功したのか。それはおそらく、クラスサイズが小さく、補助教員がつく、教師が優秀で、医師と並んで尊敬されている、教科書も教え方も教師の自由、担任は全員、難関の修士課程を修了していて、みっちり教育実習と自己研修を受けている。優秀な担任が自分の信念に基づいて、思い切ったクラス運営をする。このような要素が相乗効果を表して、「生徒中心主義」が成功したと推察される。

 

いっぽう日本の場合はまったく反対で、クラスサイズは大きく、補助の教員もつかず、教育学部は人気がなく、教師は集まらず、尊敬されてはいない。教育実習はほんの短い期間で形ばかり。教育課程も教科書もカリキュラムも、教え方さえもきっちりと法律で決められ、教師の自由はほとんどない。教師も校長も上からの指示待ち状態。

 

上海、韓国、シンガポール、日本などが  PISA国際テストでよい点を取っているが、それは、熱心にテストの勉強、対策をしているからで、「訓練主義」が勝ったわけではない。見かけだけの、偽りの勝利だ。

 

フィンランドは、日本から大量に出かけていった視察団が拍子抜けしたが、何のテスト対策もせず、国際テストを気にしている様子もなかった。フィンランド、デンマーク等の北欧、オランダ等の「生徒中心主義」の国々はなんのテスト対策もしてなかったのだ。

 

●(3)「生徒中心主義」への憧れ

明治以来の日本の教育は概して、訓練的で、一斉指導、上から知識を与えて覚えさせ、その定着を検査するといった教育であった。しかしながら一方では、常に「生徒中心主義」への憧れを持ち、研究授業となると、いかに生徒を活動させるか、生徒から疑問・質問を出させるかといった模範授業がなされ、個々の教員は、大きなクラスサイズや教える科目・事項が多い劣悪な教育環境の中で頑張ってきた。それでも欧米に追い付け、追い越せとの上からの指示でどうしても「訓練主義」にならざるをえなかった。

 

●(4)「ゆとり教育」― 憧れの実現としての教育改革

最近の教育改革で最も大きかった、いわゆる「ゆとり教育」は、このような「生徒中心主義」への憧れ、あるいは”幻想”から生まれたと見てよいであろう。

 

詰め込み過ぎの勉強、受験勉強でゆとりがない生徒に土曜日を休みにし、学習内容も3割削って、だれでもわかるように懇切丁寧な指導をしようとの運動に基づくものだった。

 

しかし調べてみると、生徒は本当にゆとりがなかったのかどうか疑問だ。そんなにがちがちの受験勉強や詰め込み過ぎの状況だったのか。そうだとはとても信じられない。

 

実際、各種調査によると、生徒の学校以外での学習時間は1975年ぐらいから年を追って少なくなっている。さらに、学校以外に自分での勉強はいっさいしてない生徒も年々数が増え続けている。

 

それでは何が問題か?

少子化で受験生が減って、うるさいことを言わなければ、入れる高校や大学はいくつもある。筆記試験がない大学もあり、勉強する気がなくても「おいで、おいで!」とばかり入れてくれる高校・大学がある。

 

一方では、生徒の学習状況は「七五三」と言われた。小学校では3割が授業がわからず、中学では5割、高校ではなんと7割が授業がわからないという。

 

それに加えて、不登校、中退が多く、いじめ、病気、自殺、傷害・殺人などが異常に多い問題。担当する教師の側では、健康不良、休職、退職率の高さ。教師の志願者がどんどん減っている問題など。

 

PISA国際テストで成績上位国の中で日本の生徒の科目嫌いが目立つ。例えば「算数の授業が楽しいですか」などに「いいえ」が他の国々と比べて飛びぬけて高い。

 

そのような状況への解決のひとつの方策として「ゆとり教育」は提案されたのだ。

 

(つづく)

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