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日本語における「主語省略」の問題(2)

Posted on 2015年3月2日

●日本語の「省略」ってどうなっているの? 英語の場合は?(1)

 

いつものようにJR総武線快速に船橋駅で乗った。優先席が空いていて、その前に数人の女性たちが立って話していた。「ここ座っていいですか」と聞いたら、「あー、どうぞ」と言われて座った。隣は私と同い年ぐらいの男性で、見るとなにやら校正のようなことをしている。

 

ちらちら覗いてみると、辞書の校正らしく、「お菓子」「お米」「お煎餅」「お豆」…といった「お」がつけられる名詞(美化語と言うらしい)がアイウエオ順に並んでいる。へー、この人は辞書をやっているんだと興味をそそられた。少ししてまたちらっと見ると、その欄外に「主語省略」「述語」と大きめの文字で書きつけてある。

 

「イヤー驚いた、主語省略などに興味を持っている人がこんなところにいた」と思ってドキドキした。これを逃す手はないと、「失礼ですが、辞書をおやりですか。実は私も英語の辞書を作ってきまして」と話しかけてしまった。

 

その方は「お」「ご」のつく丁寧語、美化語を整理していると言われた。話ははずんで、「主語省略」のことも話した。名刺をいただいた。言語工学研究所の代表だと言われる。名刺がなくて、あとでメールを送りますと言って別れた。

 

帰宅して、その方のブログを見ると、電車の優先席でのシニア同士の交流として、私との出会いが紹介してあった。国分芳宏さんとおっしゃるその方のブログと論文で「主語省略」と「述語(動詞+助動詞・助詞)」の関係の裏付けが得られて有難かった。国分さんのブログを紹介したい。ブログ http://kokublog.asablo.jp/blog/  「古きよき国分」よろしかったら、ちょっと覗いてみてください。

 

●(1)英語における省略のルール

英語の短編小説や随筆などから、省略があるなと思った部分をカードに取り、カードが600枚ほどになったので、その省略を補いながら分類した。

 

該当の例文の中、あるいはその前の文によって大部分は省略を補うことができた。それもかなり簡単に、機械的にできた。また分類も、目に見える具体的な構文ごとに分けることができた。前に予想していた通りに仕事は進んだ。

 

そのルールを一般化すると、

A:英語は「構造の前後関係」によって省略を行う。

英語は、もしもその省略を補うとすれば、「構造の前後関係」(structure)を目安にする。

 

(1) I shall believe the words, but nothing more.

(私はその言葉を信じるが、それ以上のことは信じません。)

 

この省略を補うと、

I shall believe the words, but [I shall believe] nothing more.

 

このように文法構造的に同じ語句を補えばよい。さかのぼっていって、その文の中に、あるいはひとつ前の文に、同じ語句を見つければよい。原則としてそのテキスト内に復元先があり、しかも、復元の仕方は一通りしかない。

 

(2) We appointed Paul chairman of the conference, and Tom secretary.

(私たちはポールを会議の議長に、トムを書記に任命した。)

 

これも省略を補うと、

We appointed Paul chairman of the conference, and [we appointed] Tom secretary [of the conference].

このように復元先はさかのぼっていくとあり、復元先と文法構造が同じで、復元の仕方は一通りしかない。

 

実際に600用例のうちの300ぐらいを復元してみたが、九分通りこれで復元できた。

 

もう少し用例を見てみよう。

(5) You know so much, where is she? [She is] Dead. Or [she is] married….(よくご存じでしょう。彼女がどうなっているか。死んでいる。あるいは、結婚しているとか…。)

このように「主語+述語(動詞)」の形で省略されている例は多い。

 

また、述語(動詞)だけの省略も多い。

(6) On one side of the green is the church, and near it,   [is] the village inn.(草原の一方の側に教会があり、そして その近くに村の宿屋があります。)

 

唯一例外的な省略がある。それは「頭部省略」と呼ばれる。

(7) [Are you] Going to be the strongest men in the world?

((君たちは)世界で一番強い人になろうと言うのか。)

(8) [It] Sounds a little funny to you, does’t it?

(あなたにはちょっとおかしく聞こえるかもしれないけど。)

 

このように話し言葉において、復元先には関係なく、Iやyouのような「人称代名詞」、「代名詞+be動詞・助動詞・いくつかの意味の軽い動詞」などを省略することがある。これはかつて軽く発音していたものが、発音しなくなったと考えられるものだ。これは上記のような代名詞、be動詞、助動詞、いくつかの動詞に限られ、広く応用できる用法ではない。「閉じられた用法」で慣用的なものとしてよいだろう。

 

(つづく)

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