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浅野:英語教育批評:日本人の発音のこと

Posted on 2006年8月8日

 戦後しばらくは、PTA を「ピー・チー・エー」と言ったり、野球放送でも「バッチング 」と言ったりしていた。現在では「ティ」の音はかなりの人が出せる。しかし、/ f / と / v / や、/ l / と/ r / の発音や聞き分けはほとんどできない。日本語の場合はそれで困らないわけだが、「ロード・オブ・ザ・リング」などと書かれるとさっぱり分からない。なぜ意味も分からないこんな表記がまかり通るのであろうか。
日本語の発音指導のことを知りたくて、斉藤純男『日本語音声学入門[改訂版]』(三省堂、2006)を読んでみた。日本人にはなじみのない音として、「放出音」「入破音」などが解説されていて、音声教育とはあまり関係がないと思った。教師には音声学も素養としては必要だが、大切なのはどう指導するかである。
英語教育でも「発音」を教えることと、「音声学」を教えることを勘違いすることがある。牧野武彦『日本人のための英語音声学レッスン』(大修館書店、2005)などもりっぱな「音声学」の解説書だ。
一方、英語教師の中には、「不定冠詞の a は、母音の前ではなぜ an になるのか」という生徒の問いにも答えられず、an apple を「アン・アプル」と発音する者がいる。国語教師でも、留学生がよくする「『五十音図』とは何か」「経済は“ケイザイ”か“ケーザイ”か」という問いにうまく回答できるかあやしい。そういう教師に必要なのは、専門用語を多用した「音声学」ではなく、「日本人のための発音レッスン」ではないかと思う。(浅野 博)

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