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浅野:英語教育批評:国語教育の改革とは(その1)

Posted on 2006年10月19日

 国語教育にも改革の動きがあるのではないかと思って、次の本を読んでみた。

 有元秀文:「国際的な読解力」を育てるための「相互交流のコミュニケーション」の授業改革——どうしたらPISA に対応できるか——(渓水社、2006)

 ますこの表題でつまずいた。この著者の好みなのか、他の著作の表題も長いものがあるようだが、長ければわかりやすいというものではない。「『相互交流のコミュニケーション』の授業改革」はよくわからない。「国語の授業改革」とか「われわれの授業改革」ならわかる。本の中身から判断すると「『相互交流のコミュニケーション』を目指すことによって国語の授業を改革すること」と解釈すべきものらしい。
 著者のフィールドワーク的な観察や資料収集に基づく考え方と提案はかなり説得力があるが、コミュニケーション重視という面では、英語教育のほうが一日の長があるようだ。問題点の1つは、PISA (仮に「15歳児の国際的な言語能力テスト」としておく)の順位だけが絶対的な基準になるのかということである。英語教育でも TOEICや TOEFL の順位だけを日本人の英語力の基準にすることに問題があることはすでに指摘されてきた。
 国語教育の遅れは「外国人のための日本語教育」に背を向けてきたことが大きな一因であろう。『新版日本語教育事典』(大修館書店、2005)によれば、日本語教育は紆余曲折を経ながらも確実に進展していることがわかる。こういう実績を軽視してはいけない。
 なお、PISA については、石原千秋『国語教科書の思想』(ちくま新書、2005)にもくわしく紹介され、論じられている。しかし、この書の問題提起はまた別な観点があるので、それについては次回に考察してみたい。
(浅 野 博)

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