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“英語教育とグローバル化”のことを考える

Posted on 2012年10月16日

(1)「英語教育」誌(大修館書店)の2012 年11月号の特集は、「グローバル人材を育てる英語教育」です。私はまず「グローバル人材養成」と「英語教育」はどう結びつくのか疑問に思いました。特集ページの表紙には、「近年、政府や自治体、学校現場において『グローバル人材』育成事業が強化されている」とありますが、私には、国際人の養成が「強化」されているとはあまり思えないのです。

 

(2)最初の記事は、文部科学省官房国際課による、「グローバル人材育成への取り組み」で、今年の6月に公表された「グローバル人材教育戦略」の説明をしています。小見出しには、「大学の国際化の飛躍的推進」とか、「学生の双方向交流の推進」など威勢のいい文言が並んでいますが、こうした掛け声だけで「日本の教育のグローバル化」が進むと考える人はいないでしょう。文科省の立場で発言するならば、予算(要求を含めて)などの裏付けのある主張をしてもらいたいと思いました。

 

(3)時あたかも、山中伸弥教授がノーベル賞を受賞して、テレビも日本人が喜びに沸く場面を繰り返し放映していました。しかし、山中教授は、講演や記者会見で、「自分の研究に関わり、助けてくれた大勢の若い人たちの身分が極めて不安定です」と訴えていました。教育や研究にはお金がかかるのです。このことを抜きにして、スローガンだけ掲げても意味がないと思います。

 

(4)昨夜(10月14日)の朝日テレビは、池上彰氏による時局解説を5時間にわたる特別番組で放送していました。その中で、デンマークの教育がなぜうまくいっているのかという話題があって、私立でも公立でも無料で、指導方針として、小学校の低学年から、「自分が学びたいことを自分で決める」教育をしていることを紹介していました。池上氏は2人のタレントとデンマークの学校を訪問して、授業の実際も映像で見せていました。

 

(5)国情が違いますから、デンマークの教育方法をそのまま真似することは出来ないでしょう。しかも、日本のように学習指導要領で画一的な教育を強要しておいて、“グローバル人材を養成している”などと言えるのでしょうか?私は言えないと思います。一方では、政治家たちは、「臨時国会を始めろ」「始めない」とか、「党首会談をやれ」「やらない」といったレベルの言い争いをしているのです。雑誌向きに教育問題の一般論を書くにしても、スローガンだけでは意味が無いのです。

 

(6)水口景子(公益財団法人国際文化フォーラム)「グローバル社会を生き抜く外国語教育―隣語教育からの提案―」では、まず「外国語=英語?」と疑問を呈して、もっと隣国の言語(隣語)を学ぶ必要性を主張しています。そして、高等学校の831校が中国語を、420校が韓国・朝鮮語を開講していますが、履修者の数は極めて少ないことを数値で示しています。そして、「こういう現実を見逃すわけにはいきません」と述べています。グローバル化の問題に限らず、日本の教育の現状はあまりにもお寒いのです。

 

(7)加藤ゆかり「データで見る『今の若者は本当に内向き志向?』」は、グラフで海外の留学生と日本人の留学生数の変化を示しながら、今の若者たちが、必ずしも海外志向の気持ちを失っているのではなく、「そのきっかけに出会っていないだけなのです」と結論しています。このあたりは、人によって見解が分かれるところでしょうが、いずれにしても、「グローバル人材の養成」は簡単ではないことだけは確かだと思います。(この回終り)

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