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「英語教育批評」(その66の1)(「新学期のための準備」のこと)

Posted on 2013年3月7日

(1)「英語教育」誌(大修館書店)の2013年3月号の特集は「新学期前に確認しておきたいこと」です。2学期でも3学期でも、前の学期で出来なかったことを反省して、授業の始まりに備えるということは必要であり、大切なことだと思います。したがって、この特集のテーマの設定には異論はありません。経験者が何を語るか興味をそそられるテーマです。

(2)冒頭の記事は、塩井博子(栃木県宇都宮市立上戸祭小学校)「『外国語活動』を担当することになったら」です。これまで8年間の「外国語活動」指導の経験者の書いたものですから、同意出来ることが多いであろうと思ったのですが、すぐに疑問に思ったことがあります。「『外国語活動』の目標はコミュニケーション活動の素地を育成することであり、スキルの定着ではない」と述べているからです。

(3)小学5,6年生に、昔流行った“パタンプラクティス”のようなことばかりをやらせるのは確かに無謀ですが、ある程度“スキル”を身に付けないと、英語でのコミュニケーションなど出来ないと私は考えます。冒頭の記事であれば、「外国語活動は英語を教えることだ」と単純に考えがちな小学校の教師に対して、「“外国語活動”とは何か?」「なぜ“英語活動”ではないのか?」といった基本的な問題から説いて欲しかったと思います。

(4)東村広子(埼玉県所沢市立所沢中学)「小中の滑らかな接続を目指して」は、「滑らかな接続のための3つのポイントを挙げています。「(1)外国語活動の把握と生徒の現状の見取り」がその1つですが、新入生にアンケート調査などをして現状把握に努める方法は堅実です。ただし、その中学へ集まる小学校の数が3,4校にもなれば、現状分析も大変難しいことでしょう。「(2)音と文字のつながり」まで視野に入れると指導方法が絡んで、さらに大変です。どうやってその“大変さ”を克服するのかまで論じて欲しいと思いました。

(5)知見晴弘(山梨県大月市立第一中学)「中学校で増えた1時間を有効に使っているか」では、実例として、「フォニックス指導の充実」と「アウトプットの機会を増やす」を示しています。“フォニックス”は、それなりの考え方と教材を前提にするものなので、同じ検定教科書を使って、“フォニックス”を深めるのには無理があるのではないでしょうか?“アウトプットをさせる”ことは必要でしょうが、生徒の能力差が大きく出る面ですから、個別指導への配慮が欠かせません。そういう困難点にも言及して欲しいと思いました。

(6)肥沼則明(筑波大附属中学)「教科書(教材)のここをチェックしておく」は、「『いつ』『何』をチェックするのか?」に始まって、教材ばかりでなく、「指導過程のチェック」にまで言及しているのは親切な配慮です。「教科書の本文を詳細に読んでみると、本来であれば新出の文法項目として扱ったほうがいいような重要な表現が潜んでいることがある」とありますが、それを知るのは簡単ではないと思います。

(7)なぜならば、検定教科書には著者や編集委員会などの“意図”が含まれていますから、それを知るためには教科書会社が発行する「指導書」とか「マニュアル」といったものを読まなければなりません。ところが、「指導書」などは1学年分でも2,3万円以上もするので、入手しにくいのです。そういう困難点に加えて、文科省の予定変更で、新学習指導要領の実施がこれまでの予定とずれていることなども指摘してもらいたいところです。同じ教科書を使っている学校の教師だけが研究会を持っても、どうしても視野が狭くなります。この問題の解決には、教科書採択制度を見直すなど大問題の解決が必要なのです。(以下次回に続く)

(8)訂正とお詫び:前回の「英語教育批評」では、「センター入試の制度」のことを問題にしました。その中で、「共通1次試験」の始まった年を「昭和49年(1974)」と書きましたが、「昭和54年(1979)」の間違いでした。指摘してくれた久保野雅史氏(神奈川大)に感謝し、読者の方々にお詫びして訂正いたします。

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