言語情報ブログ 語学教育を考える

「英語教育批評」(その66の2)(「新学期のための準備」(続き)

Posted on 2013年3月21日

(1)大塚謙二(北海道壮瞥町立壮瞥中学)「デジタル教材を本当に効果的に活用しているか」は、仰々しい題名で、「効果的に活用などしていないくせに」とでも言っているような感じが私にはします。しかも最初の見出しには、「見切り発車が必要な ICT を活用した授業」とあります。最近は「見切り発車」と言うと、多くの乗客が窓や入口にぶら下がっているような満員列車が発車してしまうようなインドからのテレビ画面を連想します。大塚氏は、実際に学校を訪問してみると、最新の機器を眠ったままにしている学校が多く、そういう場合は、準備ができるまで待っていたら永久に使えないのだから、“見切り発車”が必要だということ言いたいようです。

 

(2)私は“見切り発車”を強要しているのは、文科省だと思うのです。予算があって各学校に必要な機器を配ることが出来るのであれば、講習会を開いて、必要な準備をさせるべきでしょう。大塚氏のここで説いていることに全て反対するつもりはありませんが、説明がやや乱暴で分かりにくい点があるのです。私の持論として、「英語教育」誌の記事は教職の未経験者にも分かるように書いてもらいたいと思っています。

 

(3)増渕素子(東京都渋谷区立原宿外苑中学)「指導要領改訂最前線を進む生徒たちに、どのようなケアが必要か」も、ものものしい題名で、生徒がまるで戦争中の軍隊みたいです。「指導要領の改訂の際に指導上注意すべき問題点」といった分かりやすいタイトルでは何故いけないのでしょうか。“ケア”も日常語としては、「高齢者の介護」について使うことが多いと思います。記事の内容は多くの統計資料を基に真剣に論じているのですから、分かりやすい題名にして欲しかったと思います。

 

(4)中野達也(東京都立白鴎高校)「高校新指導要領導入にあたり、これだけはやめようと思っている3つのこと」の“3つのこと”の最初は、「1. 旧課程にあてはめて考えるのは止める」で、「そんなこと当たり前ではないか」と言いたくなります。ちなみに、あと2つは、「2. 先生ばかり話し続ける授業はやめる」、「3. あれこれ迷うことはやめる」で、指導要領とは関係なく、やらないほうが良いことだと思います。ことば尻 をとらえるようですが、表題の「新指導要領導入」もおかしい言い方です。指導要領は教員が“導入”するものではなく、むしろ教員に“押しつけられるもの”と考えるべきです。記事の内容は、指導上の留意点を真面目に論じているものだけに、もう少しことば遣いに注意してもらいたいと思います。

 

(5)柴田まり(山形県立楯岡高校)「『英語で授業』をどうはじめるか」で、やっと分かりやすい表題になりました。内容も、生徒のほとんどが進学しない農業高校での経験談や、「英語で授業をやってみませんか」と呼びかけた時の一人の同僚が応じてくれた反応などを紹介していて、分かり安いと思います。欲を言えば、もっと英語の実例を示して欲しかったと思います。

 

(6)亀谷みゆき(岐阜県立東濃実業高校)「観点別学習状況の評価をどう実施するか」は、「観点別学習状況の評価とは?」ときちんと定義をし、その実践方法と問題点を述べている親切な記述です。細かい点では、生徒向きに、”Do you think animals can think? Why / Why not do you think so? と書いていますが(p. 35)、不正確な英語です。1つは、”closing quotation marks” が無いこと。後半は、”Why not think so?” とすべきでしょうが、口語的な表現であることに留意しなければなりません。

 

(7)田地野 彰(京都大学)「大学で専門英語を指導することになったら――ライティング指導を中心に」は、タイトルだけを見ると、中高の英語教員には、「専門英語とは何だろう」と思う者もいることでしょう。この記事では、“専門英語”とは何か、から始まって、“アカデミックライティング”とか、“ムーブ(move)”(文章の展開において特定のコミュニケーション機能や目的を果たすまとまり)といった専門用語の解説やその利用方法を丁寧に説明しています。英語教員であれば、ESP (English for Specific Purposes)(特別目的の英語) くらいは知っておくべきでしょうが、実践の方法は、大学や学部によって大きな違いがありますから、中高の英語教員は必要に応じて学べばよいことだと思います。 (この回終り)

Comments (0) Trackbacks (0)

Sorry, the comment form is closed at this time.

Trackbacks are disabled.