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浅野:英語教育批評:文法指導のこと

Posted on 2007年2月15日

 英会話重視に流れた英語教育の反省として、「もっと文法指導を」という声がある。教育課程審議会でも、「文法指導と語彙の充実」が話題になっているようだ。むしろ当然のことと考えたいが、ことはそう簡単ではない。文法指導は、「英語教育」誌上やワークショップなどでも繰り返し論じられてきたように、問題も多岐にわたっているし、解決はむずかしいのだ。
 まず学習者が戸惑うのは、「文法用語」である。ある中学3年生のクラスでは、「受身形は?」と先生が問うと、「be 動詞プラス過去分詞」と生徒が一斉に答えるのを30年ほど前に見学したことがある。「現在完了は?」「have プラス過去分詞」、「第5文型は?」「主語、動詞、目的語プラス補語」といった調子である。生徒の反応は見事なのだが、「これが英文法の学習か?」と強い疑問を感じた。「目的語」とか「補語」とかの文法用語は明確な定義がしにくいのだから、内容がわからずに暗記させても意味がないのだ。文法指導が重視されると、またこのような授業が再現する可能性は大きい。
 専門用語が多用される例としては、悪評高いパソコンの説明書がある。「ディスクイメージとは、ハードディスクに格納されたあらゆる情報のコピーが保存さているファイルです」といった説明を読むと、「ハードディスクって何?」「ファイルって何?」といった疑問が湧く。しかし、そんなことを知らない初心者は相手にされていない。だだし、コンピュータ用語は、文法用語よりは、はるかに明確な“定義”が出来るものだ。したがって、説明する側に親切心があれば、なんとかなる。文法の説明はそうはいかない。
 「文法用語など知らなくても母語は習得できるではないか」という疑問も当然生じる。では、日本人が英語を学ぶ場合に、母語の場合に準じた“環境”を保障できるかと言えば、全くそんな保障はない。「だから、文法用語を多用した文法指導が必要である」と議論は堂々巡りになる。問題の根は深い。
(浅 野 博)

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