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浅野:英語教育批評:コトバの堕落

Posted on 2007年4月23日

 昔、英語史の授業で、soon という単語は「ただちに」という意味だったが、そのうちに「間もなく」という意味に変わったと教わった。単語だけではなく、コトバそのものが時代と共に変化することは多くの人の常識になっていると思うが、最近はその変化がとても速くなっているように思える。
 この傾向は特に日本語で激しいのではなかろうか。その原因は、1つには「誤用」と、その「誤用」を許容してしまう社会の風潮にあると思う。最近よく使われる言い方に「なにげに」がある。これをテレビで耳にしたのは数年前で、「何げなく」という否定の言い方を肯定にしてしまうとはひどい誤用だと思ったのだが、今は所ジョージくらいの年配のタレントも平気で使っている。本来の意味に関係なく、短いほどよいという傾向がコトバの変化を加速している。
 もう1つの原因は、特にテレビが誇張した表現を乱用することである。「激白」「徹底討論」「直撃インタービュー」など繰り返して使われると強い感じが失われてしまう。加えておかしいのが政治家の言い方で、明らかに矛盾した発言内容の弁解に「適切に処理し、報告しております」を何回も繰り返した大臣がいる。これでは「適切に」の意味がゆるんでしまう。これはコトバの変化というよりも、堕落と私は考えたい。堕落させているのは人間だが。
 「適当に」というのは、もうかなり前に堕落していて、「ある目的や条件にうまく合う」といった意味は、「適切に」に譲っていた。今後は、「適切に」も「いいかげんに」くらいの意味で使われるであろう。
 「誇張」というのは、レトリックの分野で認めている表現技法で、うまく使えば文章の効果を高められる。日本語でも英語でもこういうことを教えて、表現技術を高める必要があるのだが、とてもその余裕がないのが実状であろう。先日も、安倍首相と菅議員が委員会でお互いの国語力の不足を責め合っていた。真に責められるべきは、言語教育の不在であろう。
(浅 野 博)

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