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浅野:英語教育批評:「書くこと」の指導に関連して

Posted on 2007年7月24日

 次は古い学習指導要領(英語)からの引用だが、当時は学年ごとの目標が示されていた。何年用の目標か見当がつくであろうか。
(ア)文を聞いて正しく書き取ること
(イ)書こうとする事柄を整理して、大事なことを落とさないように書くこと。
(ウ)書かれていることの内容を読み取って、それについて書くこと。
 これは昭和56年(1981) から実施された中学1年の「書くこと」の指導目標である。小学校での英語学習は前提とはされていなかったし、公立中学校における英語の「標準週3時間」がこの指導要領によって強制的(週4や週5を禁じる)力を持つようになったときである。しかし、私立中学校への強制力はなく、英語の時間数が多い私立学校への受験競争が激化したときでもある。検定教科書で使える単語数は900〜1,050語(現行は「900語程度」)で、第1学年での使用数は多くて 400語くらいである。これで、「書こうとする事柄を整理して、大事なことを落とさないように書くこと」など指導できるであろうか。2学期の終わりあたりで、次のように書けたら上出来であろう。
I have a brother.
His name is Taro.
He is five years old.
I like him very much.
 しかし、別な生徒は「私には姉がいて、ピアノがうまくて、私も姉のようにピアノをうまく弾けるようになりたい」と書きたいと思っても、「姉」「ピアノを弾く」「〜になりたい」は未習であるからお手上げである。そうすると「書こうとする事柄を整理して」というのは、「言いたくても言えないことは省いて」ということであり、「大事なことでも落として(書く)」ということになりがちである。
 そこで、初期の外国語学習では、「もっぱら基本文の暗記をさせよ」という主張が正当性を帯びてくる。Pattern Practice はその点かなり有効だった。それも捨て去り、現在は「コミュニケーション」重視で、「話すこと」の練習ばかりして、どういう力が生徒につくのかじっくり反省してみる必要があると思う。
(浅 野 博)

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  1. いつも、浅野センセイの教育評論を拝読させていただいている者です。「ふん、そうか」「なるほど」と肯きながら、呼んでいます。ぜひ著書として刊行してくださるよう、お願い致します。座右の書に致したいと考えています。


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