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浅野:英語教育批評:「停車中の列車は…」

Posted on 2007年10月30日

 高校の先生をしていた方から、「駅のアナウンスが 『8番線に停車中の列車は…』を
“The train stopping at Track 8 is ....” と言っていたが正しいか」という質問を戴いた。これは「止まろうとしている」であって、「止まっている」ではないというわけだ。その通りで、 standing や waitingを使うのが正しい。この英語の語法についてはすでに『続・英語語法大事典』(大修館書店、1976)に詳しい解説がある。
 ふつう英語の現在進行形は「〜している」と訳すので、
A car is stopping. を「車が止まっている」と訳してしまう。日本語では「動詞+ている」で、進行形に当たる表現を作るが、「止まる」「落ちる」「死ぬ」などは、「瞬間動詞」と言われるもので、「〜ている」をつけると「その動作が完了した状態」を表す。「そのイヌは死んでいる」は、The dog is dying.(死にかけている)ではなくて、The dog is dead. の意味になる。
 「落ちる」と同意語のような「降る」は、「雨が降っている」のように使える。つまり「降る」は「継続動詞」で「瞬間動詞」ではないのだ。ただし、この2種の動詞の区別はそれほど厳密ではない。木の葉が散っているところを見ながら、「木の葉が落ちている」と言うのは「正しい」とする人もいる。「落ちつつある」は日常表現としてはなじみにくい。表現はこのように「ゆれ」を伴うものだ。こういうことは、英語学習者の母語(日本語)をよく知っている教師でないと教えられない。日本人英語教師の存在意義の1つだ。
 ところで、問題はもう1つある。駅のアナウンスを吹き込んでいるのは英語のネイティブ・スピーカーだ。テレビの CMでも、時に「英語的でない」言い方が問題になる。本来の英語を曲げてでも、「日本式英語」の使用を主張する企業と不自然な英語の録音でも引き受けるネイティブ・スピーカーのことをどう考えるべきであろうか?
(浅 野 博)

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