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浅野:英語教育批評:「学習英文法」を探る

Posted on 2008年3月4日

 英文法を英語学習の中心に置いた次の2冊を紹介したい。
(1)田中茂範『文法がわかれば英語はわかる』(日本放送出版協会、2008)
 これは魅力的なタイトルである。しかし、多くの高校生は手にとってはみても途中で投げだしてしまうのではないか。例えば、「現在」の話をしようというのはとっつきやすいが、そこには「単純形」「テンス」「アスペクト」といった用語が多用されている。「単純形」はすぐに「進行形」「完了形」などに話が発展する。つまり、文法用語はかなり知っていることが前提とされている。努力はしてみたが、行き詰ってしまったが、意欲はあるという学習者でないとついていけない気がする。もっとも著者は、NHK で出演されたし、その番組はDVDでも発売されるようなので、視聴してからこの本を読めば、もっとわかりやすくなるであろう。
(2)斎藤兆史『英文法の論理』(日本出版放送協会、2008)
 このタイトルでは、気軽に手を出す学習者はいないであろう。そこで表紙の帯には「英語学習の王道!」とある。「英会話」中心の指導法や教材を厳しく批判してきた著者が、ではどのように学ぶべきかを文法を中心に具体的に述べている。ただし、欲張りすぎている感があって、例えば、名詞ではその5種類を示し、時制では、現在・過去・未来のほかに7種類が羅列される。多くの学習者はこのあたりで脱落してしまう。名詞なら「数えられる名詞」「数えられない名詞」くらいの区別がやっとなのである。本書ではヤコブソンの考え方を「タテ軸」「ヨコ軸」と置き換えて説明し、それに基づいた練習問題も示している。教室ではただ「自分の言いたいことを言ってみましょう」などと指導している教師にはよく実践してほしい方法である。
 外国語を知的に理解し使えるようになることは、誰にでも可能とは限らないとすれば、「皆が英語を話せるように」というこの国の英語教育政策は根本的に考え直す必要があるだろう。指導要領を手直しする程度ですむことではないのだ。
(浅 野 博)

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