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浅野:英語教育批評:流行語大賞?

Posted on 2008年9月11日

 福田首相の「あなたとは違うんです」が今年の流行語大賞になるのではないかとマスコミが騒いでいた。すぐに忘れ去られる流行語なのだから、どうでもいいけれど、もう少しましな議論をしてもらいたい。政治的流行語ならば、昨年の宮崎県知事の「(宮崎を)どげんかせんといかん」は意図が明確でよかった。
 首相の発言は、辞任会見の際に、記者からの「いつも首相の発言は他人事のように聞こえるが、今の辞任理由もそのように聞こえた。そのことをどう思うか」という質問に答えたものだった。珍しく怒った口調で、「私は客観的に自分を見ることができるんです。あなたとは違うんです」と述べたわけだ。
 あるテレビキャスターは、「この“あなた”は国民を指している。つまり国民を見下した発言だ」と述べていたが、少し飛躍がありはしないか。日本語では、二人称の(代)名詞の使い方が複雑で、特に“あなた”は難しい。漢字では「貴方」とか「貴女」と書くように、本来は目上の人への敬意を含む言い方だったが、現在では「対等」もしくは「目下」の者へ使うべきものとされている。恐らく初対面であろう記者に対して使えば、「上からの目線でものを言っている」と感じ取られてもやむを得ないとは思う。
 友人同士では、「お前とは違うよ」はよく聞かれる。「おっ!ゴールドカード持ってるのかよ」「そうさ。お前とは違うよ」という会話では、明らかに優越感を含んだ言い方だが、相手を知っている場合だから許される。
 首相の発言のほとんどは、「他人事のように聞こえる」というのは確かで、それがわからないようでは、「自分を客観的に見ることができる」などと言えたものではない。教員の場合で譬えてみよう。担任のところへ、数人の生徒が来て、「試験の時にとてもカンニングが多いので、なんとかしてほしい」と訴えられて、「そうね、私もカンニングは良いことだとは思いませんよ。生徒もね、めいめいが悪いことだという自覚をもって試験に臨んでほしいね」と答えたら、生徒たちは納得するであろうか。
(浅 野 博)

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