言語情報ブログ 語学教育を考える

浅野:英語教育批評:IQ とEQ のこと

Posted on 2009年4月9日

 IQ は多くの日本人には「知能指数」のことだとわかるであろう。一方、EQ の方は、知らないか、忘れてしまっているのではないか。ダニエル・ゴールマンの著作“Emotional Intelligence” (1995) を訳した土屋京子氏の翻訳のタイトルは『EQ こころの知能指数』(講談社、1996)となっている。私だったら、EQ は「知能指数」と対立させて、「感情指数」か「情緒指数」としたい。ちなみに『アドバンスト・フェイバリット英和』では、「感情指数(心の働きを理解し調整する能力)」としている。それはともかく、アメリカでも日本でもこの書物は売れたらしい。訳者によると、この訳本は「77万部も読まれ、さまざまな方面から『そう、これが言いたかったのだ!』という声があがった」とある(「α文庫版「あとがき」)。宣伝用の帯には、「(前半略)教育、家庭、仕事の常識を覆して日本人の価値観を変えた大ベストセラー」とある。
 しかし、「売れること」と「読まれること」は区別すべきだし、「読まれること」と「その内容によって、自己変革をすること」は別ものと考えたい。1冊のベストセラーで、国民性が変わったなどということはあり得ないのではないか。この書物によって日本人が「心のコントロール」を身につけたのであれば、現在のような道徳的退廃を招かなかったであろう。この書物の 10年ほど前(1982)には、アメリカの心理学者ダン・カイリー氏の『ピーター・パンシンドローム』が出て、小此木啓吾氏によって2年後に翻訳されている(祥伝社、1984)。少年の気持ちのままで大人になれない若者の心の問題を論じたもので、これも話題にはなったが、全体的にアメリカ人や日本人の「こころ」を救う力にはならなかったと私は思う。
 実は、国民性に最も強い影響を与えるのは政治家の政治力なのだ。アメリカによるベトナム戦争やイラク戦争の影響を見てもそれが分かる。日本でも70年ほど前に軍国主義を経験した。その愚は、言論統制や軍事費の拡大いう形で北朝鮮でも繰り返されている。私は、心理学者の真面目な研究や提案を軽視するつもりはないが、その本のタイトルや用語が流行したことだけを誇大視することは意味がないと考える。
(浅 野 博)

Comments (0) Trackbacks (0)

Sorry, the comment form is closed at this time.

Trackbacks are disabled.