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浅野:英語教育批評:「電子黒板」のこと

Posted on 2009年7月15日

(1)政府の緊急補正予算で、小中学校に1台ずつ配られることになったのが、「電子黒板」とのこと。予算としては 200億円を超えるが、「学校の設備が良くなるなら結構」と喜んでいるわけにはいかない。私は長年教育機器の導入とその活用に従事してきた経験があるので、問題点を考えてみたい。
(2)私が、語学ラボラトリー (LL) を使用し始めたのは、昭和38年 (1963) からだが、その頃にはすでに「語学ラボラトリー学会(LLA)」では、教材、利用方法などの議論や実践報告が行われていた。英語教員が中心だが、当時6万人以上とも言われた英語関係教員全体から見れば微々たる数だった。
(3)文科系が多い英語教員は、「機械はどうも苦手」と尻込みしがちだ。たとえ関心を持っていても、使い方から教材まで準備や予習が大変なのである。それだけの余裕を与える学校は皆無と言ってよかった。「いや、それでも熱心に実践している教員はいるではないか」という反論もあった。そういう教員は夜遅くまで学校に残ったり、自宅で自分の機器でテープの編集をしたりしていたのである。自己犠牲を強いるような学校はもはや「制度」ではない。
(4)私は「電子黒板」は現物をまだ見ていない。報じられているところでは、コンピュータを内臓していて、DVDなどと繋いで様々な情報の入力や提示が可能で、手書きもできるようである。あるテレビ番組で、「電子黒板」を紹介していた司会者は、「私は今この画面を使って、次々と説明の文字を出していますが、これを作るには何十人ものスタッフが要るし、リハーサルまでやっているわけです」と述べていた。
(5)視聴者には当たり前のように感じられる画面でも裏ではそういう苦労があるのだ。それでも、文字の変換ミスや写真の入れ間違いがあったりして、後から司会者などが謝る場面が毎日のようにある。教材の場合も同じ心配がある。
(6)1校に1台だけ配っても、あまり使われない状態になるのではないかと私は心配する。使おうと使うまいと、機器メーカーの景気回復になればよいといった政治姿勢は問題だ。数百万円もかけた LL が、ほとんど使われずに廃棄された例を知っているだけに気が気ではない。
(浅 野 博)

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