湯川と啄木(湯川秀樹の日本語力)
Posted on 2010年1月18日
湯川は歌をよく詠んだ。石川啄木の和歌を好み,「啄木調」という表現をほめことばとしてよく使った。551首ある『一握の砂』の歌全部が好きだと言っている。「無技巧的」に見えるが,他に真似のできない言葉づかいがいいと言う。
湯川の一番好きなのは,8番目の歌で,
いのちなき砂のかなしさよ
さらさらと
握れば指のあひだより落つ
この歌は湯川の研究生活の実感ともよく合っているという。
湯川は母の臨終に際し,いくつかの歌を詠んでいる。
東山つばらに見ゆる窓とざし
絶えなむとする脈をさがすも
これは歌人も称賛する歌だというが,まさに啄木調である。(父を送る歌は1つも残していない。)
(村田 年)