湯川と『源氏物語』(湯川秀樹の日本語力)
Posted on 2010年1月19日
湯川は,日本人の生活における「美」を考えるといつも『源氏物語』を思うという。自宅から小学校までの道筋に紫式部が住んでいたと言われる所があり,特に親しみがあったであろう。小学生時代に『源氏』を読み,まったく歯が立たなかった。
その後昭和16年から18年にかけて(34歳のころ)戦争の真っただ中に読んでいる。湯川は戦争の現実からの逃避として『源氏』に没頭したのであろう。さらに昭和35年ごろ(53歳ごろ)から本格的に読んでいる。中の何気ない挿話にチェーホフの短篇に通じるものがあると述べている。科学者の独特の感覚で,『源氏』を深く読んでいる。
湯川はドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』に強い関心を持っていた。恐ろしい,汚らわしい世界を描いているにもかかわらず,読んでいくうちに魂が清められていくような気持ちになったと言っている。
(村田 年)