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2.日本人に受けたウルマンの「青春」

Posted on 2010年6月11日

 松下幸之助は,功成り名を遂げてもうこのへんで引退しようかどうかと迷っていたとき,「青春の詩」に接し,感動し,意気が高まり,新たにパナソニック部門を立ち上げる決心をする。その自身の感激を皆に伝えたいと,「青春の詩」の色紙を作り,国内,国外の事業所などに2万部を送ったという。電力王と言われた松永安左ェ門も1万部以上を送り,トッパン・ムーア社長の宮澤次郎も1万部以上を送ったとか。そういった財界人が多く,研修会で,朝礼で,会議の挨拶で,各種挨拶状で,結婚式の式辞などで朗読されるといった具合であった。

いっぽう詩の専門家の扱いはどうであったろうか。よくは知らないが,アメリカ文学の研究者が「青春」を研究発表の種にした,講演で「青春」に言及したといった例は伺っていない。一般英語の授業で扱った先生はいたが,声を出して読んでみようといった程度であったろう。高校の校長先生,社会の先生がインターネット上に挙げている例はあるが,英語の先生では見当たらない。

英語の教材として,高校の英語教科書に載ったことはあるかどうか,私は知らない。おそらくないと思うが,教えていただければ有難い。

アメリカ人に受けるかどうか。日本のビジネスマンがアメリカの同僚に送ったり,見てもらったりしたところでは,あまり人気はなかったらしい。『リーダーズ・ダイジェスト』に載り,マッカーサーの愛唱歌だというので,関心を持って問い合わせてきた人もいたようだが。「日本人はロマンチストなんですね。アメリカのビジネスマンはロマンチックではないから。」これがアメリカ人にそれほど受けない理由説明のようだ。

その内容「★青春とは人生のある期間をいうのではなく,心の持ち方をいうのだ。」
    「★青春とは怯懦(きょうだ)を退ける勇気、安易を振り捨てる
      冒険心を意味する。ときには、二十歳の青年よりも六十歳の人に
      青春がある。
    「★年を重ねただけで人は老いない。理想を失うときはじめて人は老いる。」
    「★心のアンテナを高く掲げ,メッセージを受信し続ける限り,
      あなたは常に青春。」

といったところに,私たち日本人はすっかり酔ってしまって自分への応援歌だと思ってしまうのだろう。

以上のような思いも間違いと言えないが,ウルマンの経歴,人生,仕事,ユダヤ教徒としての思い,子や孫への手紙,ほかの詩などを考察すると,単純に事業の成功への応援歌,中高年への応援歌だとはとても思えない。
(村田 年)

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