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「『英語教育』誌(大修館書店)批評」(その8)(「生徒の間違い」と「英検1級」)

Posted on 2014年4月17日

(1)今回の第1特集は、「生徒の『間違い』から何を学ぶか」です。最初の記事は、田尻 悟郎(関西大)「生徒の『間違い』から学ぶものとは」という、総論に相応しいものです。私は40年ほど前に、田尻氏が中学校で教えていた頃の授業をビデオで拝見したことがありますが、“名人芸”と評判の高い、細かい配慮のある見事な授業だった記憶があります。

 

(2)今回の記事も読み応えのあるものですが、私が気になった点が1つあります。生徒の犯す間違いの具体的な例として、「because の前でピリオドを打ち、because を大文字で初めてしまうミス」とありますが、その原因をもっと考察すべきだと思います。今の教科書には会話文が多いので、例えば、”Why is Bill absent?”  “Because he has a cold.” のような例があるでしょうから、because を大文字で書くのも止むを得ない点があるのです。“話す英語”と“書く英語”の違いを、どの時点で、どの程度まで教えるかは、今後も教師にとって大きな課題なのだと思います。

 

(3)次の丹藤 永也(青森公立大)「中学生の英作文によく見られる誤答とその指導について」は、和文英訳の誤答例として、“納豆は嫌いなんだ”→Natto don’t like.” や、“昨日はとても疲れたよ”→Yesterday was very tired.” などを示しています、こういう間違いは、音声による訓練を十分にしないで和文英訳をやらせることから生じる間違いだと思います。さらに、句読点やスペリングに間違いが無いのであれば、そこは誉めてやるべきでしょうし、指導者の反省として、まず音声による訓練を十分にやらせることを考えるべきです。

 

(4)ここから以後は、執筆者には失礼ですが、どれも長い題名ですので、お名前と肩書だけにして、私が気付いた点を指摘させて貰います。“印南 洋”(芝浦工大)は、 テストを小テスト、定期テスト、英検のような外部試験などに分類して解説しています。適語選択問題では、I was (   ) busy to eat dinner.. を生徒が間違って”so” を入れた場合は、「“so busy that I couldn’t eat dinner.” という表現と混同していることが分かります」という趣旨のことを述べていますが、この推測は正しいとしても、もっと問題点を明確にできるテスト問題にする工夫をすべきだと思います。

 

(5)“村野井 仁”(東北学院大)は、「誤りと文法指導」を論じているのですが、“第2言語習得論”の本も書いている人ですから、理論的、抽象的になるのは止むを得ないとしても、問題の例では、日本語がおかしいと思います。例えば、「友人に Cathy 先生が来るかどうか尋ねて下さい」;回答例にDo you know if / whether Cathy will come or not.” とありますが、どうして “Do you know…? から始めるのでしょうか?おかしな例です。中高生は、AET と話す時に、男性の先生ならば、Mr. Smith 、女性の先生ならば、Ms. Smith(人によっては、Miss か、Mrs. を好む場合がある)と呼ぶように教わっていますから、もっと実状に合った例を示してもらいたいと思います。

 

(6)“加藤 美枝”(岐阜県立斐太高校)は、生徒にコミュニケーション活動をさせる中で、生徒が犯す過ちへの対処法を述べています。本当は、「コミュニケーション活動とは何か?」という問題から論じてもらいたいというのが私の期待でした。執筆者は細かい授業のステップに応じて、それぞれの段階の問題点を記述していますから、同じような学力の生徒を指導している教員には参考になるとは思いますが、一般性は低いのではないでしょうか?

 

(7)“能登原 祥之”(同志社大)は“学習者コーパス”から生徒の誤答の種類や原因を知ろうとする試みです。中1の例として、”Yesterday, I go to Akihabara with my father.” を示して、「中1で過去形を習っていないことが原因の1つでしょう」と言われても、「そんな当然のことを事前にコーパスを使って調べる必要があるのだろうか」というのが多くの教員の持つ疑問ではないでしょうか?現在では多種多様なコーパスが実用化されていますが、何を基準に作られたコーパスで、何の目的で利用すべきかを明確に意識しておかないと時間と労力の無駄になってしまいます。

 

(8)“森 博英”(日本大学)は、小学校の外国語活動での「生徒の間違い」をどのように考えるべきかを論じたものです。小学校からの、または幼児からの英語教育の実施には賛否両論があります。その点を無視して、細かい留意点を論じても一般性に欠けると思います。この点は、執筆者に対してよりも、編集者の配慮に注文をつけたくなります。

 

(9)“鈴木 真奈美”(法政大)は、まず「第二言語習得理論」について解説をして、特にライティングについての誤りの実例を示しながら、個々の学習者と教員の要因について論じています。日頃、中学や高校での指導に追われている教員にとって、どこまで必要とされる知識なのか私は疑問に思います。「第二言語習得理論から学ぶこと」といった特集をするほうが有効でしょう。大学教員の記事には、かなり専門的な参考文献が挙げてありますが、今回の特集のような場合は、中高の教員にはすぐに必要なものばかりと思えません。割愛して欲しいと思います。こういう特集で、「発音の誤り」に関する記事が1つもないのには、私は大きな疑問です。発音に関して紙面で論じる困難さは分かりますが、問題点の指摘くらいは出来ると思います。

 

(10)特集の第二は、「英語外部試験の実態に迫る」で、今回は英検1級の受験の心得と経験談ですので、特に批評することはありません。受験しようと考えている人には参考になる記事です。なお関連して、4月号の特集に関する私の批評も参考にして頂きたいと思います。(この回終り)

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