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浅野:英語教育批評:「学習英文法」とは?

Posted on 2008年2月26日

 新指導要領(中学校英語)では、「文法指導も重視せよ」ということで、「語順や修飾関係などにおける日本語との違いに留意して指導すること」と注意をしている。この直前では、「用語や用法の区別などの指導が中心とならないように配慮し…」ともあるので、「日英語の違いを文法的に説明せよ」ということには直結しないかもしれないが、そう思われても仕方がない。このあたりは5月には出るとされる解説書でわかりやすく説明してもらいたいものだ。
 英語の面から言うと、英語学と学習英文法の接近を図る試みは「英語青年」(2005年6月号、研究社)の特集でなされている。英語学、言語学の専門家9氏が、それぞれ視点を変えて論じているのだが、私が疑問に思うのは、「学習英文法」とはどういうものか、問題点はないのかといった議論がどこにもないことである。本屋の受験参考書売り場では、いくらでも「英文法」の本は見つかるが、それらは程度、説明の仕方、用語などがばらばらである。
 上記の「英語青年」の記事では、
 Susan asked Bill to leave.
 という文では、to leave の意味上の主語は Susan と Bill のどちらにもなり得るとしているが、Susan が意味上の主語になることまで教える必要はない。
 Susan asked Bill if she could leave.
がわかれば上出来であろう。
 また、語順については、次のような例を示している。
 a) The fact is that nobody knows.
 b) Nobody, the fact is, knows.
 c) Nobody knows, the fact is.
 a は高校生に必要でも、 b と c のいずれも可能だと語順の説明で言われたら、生徒は混乱するばかりだ。この特集では、金谷憲編著『学習文法論—文法書・文法教育の働きを探る』(河源社、 1992)への言及くらいしてほしかった。ここには「英文法指導」の基本的な問題点が洗い出されている。さらに継続的な研究や実践が望まれるわけだ。
(浅 野 博)
 

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  1. 初めてコメントさせていただきます。
    浅野先生のご指摘、ごもっともだと思います。『学習文法論』で言われている、文法の記述と提示の区別が、この『英語青年』の特集記事ではどれも考慮されていないという印象を受けました。それと同時に私自身も研究や実践に精進しなければならないと思いました。日本語学や国語学も勉強していますが、まだまだ知っておかなければならないことが多いなと、つくづく思います。

  2.  もちださん、コメント有難うございました。ご返事が遅れましたが、少し補足させて頂きます。
     「文法」を教えるとなると、どうしても文法用語を使って説明することにないります。例えば、「be 動詞+過去分詞は受身形になる」のように。ところが、学習者によっては、be 動詞も過去分詞もよくわからないということになりがちです。ちょうど、コンピュータの説明で、「ヘルプ」を利用してもよくわからないのは、用語そのものの説明がないからであることと同じです。
     もう1つの問題点は、「学習文法」そのものに不統一や理論的でないものがあることだと思います。例えば、品詞の分類にしても、冠詞や助動詞の扱いは文法書によって違っています。
     渡部昇一氏や齋藤兆史氏などは、「基礎的な英文法」をしっかりと教えろと主張されていますが、「学習英文法」そのものへの批判がないことが私には不満に思えます。「英語を学ぶための便宜的なもの」と割り切ることも必要かもしれませんが、それは教える側の考え方であって、学習者には疑問が残ることを忘れるべきではないでしょう。今後とも考えていきたい問題です。


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