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浅野:英語教育批評:「英語教育」8月号(大修館書店)に思うこと

Posted on 2008年7月22日

 この号の特集は「英語教師のためのこだわりの旅」だ。私は「こだわり」という言い方はあまり好きではない。最近は「素材にこだわった料理」のように「良い意味」でも使われるが、本来は悪い意味のほうが強い言い方だ。旅行については、個人がどう“こだわりの旅”をしようとかまわないが、「英語教師はこのようにこだわった旅行記を参考にせよ」と言われると素直に受け取れない気がした。
 ことばの教師は、教材にどんな話題が扱われるかわからないから、広い知識と経験が必要なのは確かだ。しかし、一生をかけたとしても、学べることは限られている。だとしたらあまり細部にこだわらずに、広く浅い知識のほうが役に立つであろう、というような思いがあって、半信半疑でこの特集を読みだしたが、結構おもしろくて、役にも立つと感じた。何事も先入観で判断してはいけないとも反省した。
 例えば、紀伊半島の先端にある紀伊大島には、ペリー来航の62年も前に、アメリカ船が来航し、日本に通商を求めたという史実は、日本の教科書では無視されている(p35)とか、アメリカの4名の大統領の顔が巨大な岩山に彫られていて有名なマウント・ラシュモアについては、多くのネイティブ・アメリカンが侮辱的と感じていて、ネイティブ・アメリカンの大彫刻を作る計画が進行中である(p.13)、といった情報は英語教師には必要なものであろう。
戦後4,5年目で主に大学教授がガリオア資金などで留学し、帰国後よく報告会が開かれた。当時の日本人には珍しく、羨ましくもあるアメリカの話は興味をそそる点も少なくなかったが、こちらには地名もよくわからない風景の写真や、本人が世話になった人々の写真を次々と長時間見せられても、ほとんど印象に残らなかった。本人には懐かしさもあって、楽しいものであろうが見せられるほうはうんざりということがある。教室で生徒に自分の経験を話すときは、十分に注意をしたいものだとその頃から思ってきた。
(浅 野 博)

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