言語情報ブログ 語学教育を考える

5.今後の教育の方向

Posted on 2011年3月9日

以上は少し古く,アンケート調査をPISAと読売新聞とをまぜこぜにしたものではあるが,このような点について大きな改善が見られたとはとても思われない。朝の始業前の10分間読書の運動が行われ,かなり流行っているという。押しつけの10分間読書でどれほどの効果があったろうか。

また,高校入試問題も一部変ってきているという。クリティカル・シンキング(批判的・論理的思考)の訓練なども叫ばれている。しかし,これらはいずれも目先のつくろいをした,泥縄式改善に過ぎないであろう。

根本的には教育体制を変え,教員の扱いを変え,家庭のやるべきことをしっかり自覚する必要がある。そうでなければ現在の上位の学力は簡単に崩れてしまう心配がある。

学力の3本柱は
1.基礎基本,2.考える力,3.学ぶ意欲
であるが,日本の今の中高生の場合,1もかなり危ういが,2,3が他国の生徒と比べて大きく劣っている。そればかりか,道徳的志向が極めて弱い。改善では間に合わない,大きな変革が望まれているのである。

教育改革としては,簡単に言えば
1.全国一律の「中央集権的な」「訓練的な」教育を変えて,地方自治体へ,学校長へ,クラス担任へ権限を移行する。学習指導要領はひとつの標準的なガイドライン・モデルとする。

2.先生の雑用をでき得る限り取り除き,自由な時間を与え,先生が授業に力を注げるようにする。クラスの生徒数を減らし,その上補助教員をつける。

3.生徒を比べない,クラスを比べない,県単位で比べない,国を比べないようにし,各先生の個性・アイディアを尊重する。

これより先の議論は別の機会としたい。
(村田 年)

4.少しばかり詳しい分析・考察(2)

Posted on 2011年3月6日

さらに,これはだれも指摘してない点であるが,PISA調査は義務教育終了段階の調査であるが,日本では高校1年生を当てていることだ。これは学校教育が4月始まりなので,仕方のない面でもあるが,それだけマイナスして判定しなければならないだろう。もしも中学3年生について行っていれば,さらにいろいろと多くの問題点が出てくることが想像される。

PISAの具体的なアンケート結果ではなくて,結果の講評・評価を読んだだけで資料不足なので,他のアンケート調査も一部利用して学力の背景を見てみたい。

1) 「数学の本を読むのが好きか」に対して「その通り」と答えた生徒は13%で,平均よりずっと低く最下位グループ。

2) 「理科の勉強は楽しいか」に対して「強くそう思う」と「そう思う」を足して8%で,40ヵ国中最下位(中学2年)。

3) 「趣味として読書をしているか」に対して「読書はしていない」が55%(1年間0冊。2000年)で,最下位。

4) 「もっと勉強したいですか」に対して,「はい」が65.1%(1965年)→23.8%(2000年)で,この35年間にガタ落ちしているが,これが改善されたとは思えない。(中学2年生に対して)

5) 学校外で「勉強しない」「テレビは良く見る」「宿題をする時間は少ない」「家の仕事の手伝いはしない」といった傾向が他の国々の生徒と比べて大きく目立つ。成績だけは受験と教育ママのおかげでかろうじて保っているといったところか。

以上の点については,2009年のPISA分析では,かなりの改善が見られる,と書いてあるが,他のアンケート調査を見る限り,最下位を免れただけではないかと思われる。

●さらに生活面・道徳面について
これは読売新聞の調査であるが。6) 「どんなタイプの生徒になりたいか」に対して「クラスのみんなに好かれる生徒」が断然トップで,「リーダーシップの強い生徒」「正義感の強い生徒」が1位の米,中,韓国とは大きく異なる。

6)「友達と意見が違ったときどうしますか」に対して,1位が「反対なのに相手に合わせてしまう」(29%),2位が「我慢して黙る」(22.5%)。

7) 「次の事柄について母親から影響を受けたか。1.自分の責任を果たす」に対して(日32.3%,米75.7%)。
8) 「親に反抗すること ― 本人の自由でしてよい」(日84.7%,米16.1%)で,ほとんどの質問に親の影響が見られない。
総じて,日本は米国,中国,韓国と比べて,両親の道徳的躾がほとんどなされていないのが見て取れる。

●先生の教え方にも問題があろう
9) 「科学の授業で生徒は課題の話しあいをするか」―「はい」が(日9%,平均42%)

10) 「先生は一人ひとりの能力・個性を引き出すような教え方をしているか」―「はい」が(日1.2%,米49.1%)
(これは帰国子女に日本の先生とアメリカの先生について聞いているので,文化的影響を考慮して,日本を10倍にして,12%で考えても,やはり低すぎる。)
(村田 年)

4.少しばかり詳しい分析・考察(1)

Posted on 2011年3月3日

まだ,結果の詳細な分析を読んでいないが,いくつか指摘されている点を見てみたい。

まず「読解力」を3つに分けると,1)必要な情報を取り出す力― 4位,2)その情報を統合・解釈する力― 7位,3)熟考・評価する力― 9位となっている。

PISA型問題は,基礎―応用―さらに自分の生活・社会・将来への応用と評価,となっている。従来の日本の学習は,この最後の段階,すなわち,その問題が自分の生活,人生,属する社会,将来とどのような関係を持つ可能性があり,また,どれほどの意義があると考えるか,といった点の学習が欠落していた。

ご覧の通り,最後の自身の生活への応用力がまだ弱く,さらに無回答,なにも書いてない答案が多い。これは問題だ。結局自分と関係してくると書けなくなってしまう,知識を自分の経験と結びつけて考えることが苦手なのだ。これは教育としては決定的な欠陥となろう。

また,OESD加盟国平均と比べて,成績の下位層の割合が多い。PISA調査の目的は,義務教育終了段階で社会生活がうまくやっていけるかどうかを見ることだが,この下位層は社会生活を営むことが困難とのレッテルが張られている。この割合が多いのは問題である。成績下位層が支援を受けないまま,高校生になってしまったわけである。
(村田 年)

3.日本は本当に安心できるのか

Posted on 2011年2月28日

今回日本では,無作為に選ばれた185高校の6000人が受験した。その結果について,学力は「ゆとり教育」以前の水準に戻った,これで一安心と言えるのだろうか。私にはそれほど状況が改善されて,明るい将来が見えてきたとは思えない。

第1にこのテストは練習なしに受けなければならないのに,わが国の場合,2003年のテストで,大きく落ちた結果,1位のフィンランド詣でを盛んにする,全国的な学力テストを
復活して,似たような問題で練習を積む,PISA型応用問題を盛んに取り入れた授業を意識的に行った。このようにすれば,ある程度のテスト成績の向上は当たり前だろう。

もともと人口の多い大国としては日本はトップ・グループで成績そのものは心配の必要がないが,とPISAの担当課長のシュライヒャー氏は述べた。がしかし,同時に行ったアンケート調査の結果は心配だ,と課長は前回述べていた。

この点が大いに改善されたとはとても思われない。確かにいくつかの改善点が指摘されてはいるが。
(村田 年)

2.成績トップ・グループ

Posted on 2011年2月25日

今回は読解力中心の調査であった。読解力順位上位国・地域は次の通り。
1位 上海
2位 韓国
3位 フィンランド
4位 香港
5位 シンガポール
6位 カナダ
7位 ニュージーランド
8位 日本

人口の小さな地域はたいへん改革がやりやすい。それを除くと日本は完全にトップクラスだ。大きな国は改革が難しく,なかなかトップ・グループに出ることはできない。
アメリカ(17位),ドイツ(20位),フランス(22位),
イギリス(25位),ロシア(43位)である。
中国は準備がまだ整わない,として不参加。上海や香港のように教育熱が異常に高く,地域が一様であれば,上位になるのはわかっていたことであろう。

韓国とフィンランドはどちらもトップだが,傾向がまったく異なる。韓国はもともと「学歴社会」で,受験競争が激しく,テストに向かってガリ勉をする。一流大学を出ればやがて待遇が3倍,4倍と言われる。国の政策もトップダウン式で,大統領の国家戦略にそって,いち早くPISA型教育を実施に移し,小学校1年生から大学入試まですべてをPISA型にしてしまった。

一方フィンランドは,ヨーロッパのほかの国々と同じく,極力PISAテストの対策はしない,国を挙げての学力テストは少なくする方向を取った。PISA調査の結果も教育方針の参考にする程度で,大騒ぎはなかった。フィンランドがトップになったのは,それよりずっと早くに行われた教育改革の当然の結果であった。

日本の場合は,また違っている。韓国のように,子供の教育のためなら親の生活は犠牲にする,トップダウンで有無を言わせず教育政策を押しつける,これはできない。以下詳しく見てみたい。
(村田 年)