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浅野:英語教育批評:「指導目標と指導技術」のこと

Posted on 2009年10月29日

(1)「所さんの目がテン!」という番組(読売テレビ系)で、「速読」の問題を取り上げていた(2009年10月24日)。訓練を受けた人の読書の速度は、普通の人の数倍と驚異的だが、欠点は感情移入がなされないことだと報じていた。感動的な話でも、涙を流すことはないことを実験で示して、話の筋や事実関係は正確に把握しているが、内容に感情を動かされることがないというのである。母語による速読のことは、これまでも報じられていたが、弱点を指摘したものは、私には初めてのことだった。
(2)教材と感動に関連したことは、以前に書いたことがある。LL(語学ラボラトリー)の教材に、原爆の悲劇(原作は大野允子『かあさんのうた』)を語ったものがあって、その後に内容確認のための英問英答がついていた。いち早く本文の聞き取りを終えた学生はさっさと質問に答える練習をしていた。 LLの指導者はその状況をこっそり聞き取ることができるのだが、英語の得意なはずのある女子学生の声が全然聞こえない。問いかけてみると、「悲しくなって練習が出来ません」とのことだった。
(3)「気持ちが落ち着くまで待ちなさい」と指示したが、普通の授業ではいっせいに進めざるを得ない。LL授業の長所はこういうところにもある。つまり、個別的に、自発的に学習が出来るのである。最近のコンピュータ授業でも可能なことだが、どうもいっせいに進める傾向があるように思う。しかもコンピュータは多機能だから、学習者の気も散りやすいことは注意を要する。
(4)英語教員に「望ましい題材」を問うと、「感動的な読み物」という声がかなり強い。極端な場合は、キング牧師の演説などは、「内容が分からなくても生徒の目が輝く」とまで言う人もいる。英語の授業は英語の基本的な力をつける」ということを度外視しているのではないかと心配になる。最近のコミュニケーション重視から、「会話教材」への要望も強いが、いずれにしても、教育目標と生徒の実態、環境などを十分に考慮して扱わなければならない。
(5)高校のあるクラスなどは、「多読から速読へ」といった目標を実現しようとしているものもある。Rapid Reading の文献まであげて論じる教員もいるが、日本の一般的な英語学習者が母語話者を対象とした「速読」を短期的な目標とするのは危険であろう。目標と指導技術の関係を十分に考慮して実践したい。(浅 野 博)

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