湯川秀樹の英語力(その1)
Posted on 2010年1月23日
はじめに
私は30歳代の10年間は工業高専に勤め,40歳からしばらくは千葉大の工学部に研究室があった。そのような関係で,工学系の人たちの紀要論文の英語の手直しをときどき頼まれた。個人差は大きいが,一般の大学生と比べても劣るのではと思われる「英語アブストラクト」もなくはなかった。
他動詞の目的語がなかったり,主語とbe動詞の数が合わなかったり,関係代名詞の節の構文が違っていたり,初歩的な不具合も多かった。私もたいした英文は書けないが,「主語+動詞+目的語」のところだけはしっかり押さえて,英語として筋の通ったものにしなければと思って努めた。
一般にみなさんは,英語の先生なのだから,簡単に直してくれるだろうと思っていて,気軽に持ってくる。あるときは数十ページの化学の論文を持ち込まれた。最初のセンテンスを見て,これは主語を変えないとどうしても英語にならないと思った。1文,1文がこれではかなわないと思い,研究費があるなら,翻訳の玄人に頼みましょうよ,と申したら,研究費ならたくさんあるとおっしゃるので,知り合いの医学・工学翻訳者を紹介したこともあった。
英語のできがよくない人ほど,手直しは簡単だろうと思っているようだった。
(村田 年)