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浅野:英語教育批評:「英語教員と研究」のこと

Posted on 2010年4月16日

(1)「英語教育」(大修館書店)の2010年5月号は、「英語教育・リサーチのすすめ」を特集している。そのテーマとしては、「多読の導入で生徒の英語力が伸びたかをアクション・リサーチで調べたい」、「シャドウイングの導入でリスニングの能力が伸びるかどうかを調べたい」、「小学校から英語を始めた生徒の中学以降の英語力を調べたい」など7編がある。
(2)「すすめ」なのだから当然だが、そうしたリサーチをするための方法が述べられている。しかし、私などは、へそ曲がりなのか、「その前に考えることがあるだろう」と思ってしまう。現在の小、中、高の教員は、研究のためには恵まれた状況にあるとは言えないであろう。私が会える現役の先生方は、「前よりも忙しくなった」と言う人が多い。軽視できない傾向だと思う。
(3)私が国立大学の附属中学校から大学へ転出したのは40年以上も昔だが、大学は研究のためにはずいぶん恵まれていると痛感した記憶がある。しかし、当時の国立大の附属校は結構恵まれていて、週に1日の研究日があり、研究費を出してくれるところもあった。その日には、図書館へ行ったり、他の地区の研究会に参加したりすることができた。研究のためにはそうした余裕が必要なのである。現在では、研究日などを要求すると、「担任が不在のときに事件が起こったらどうするのか」といったことを校や指導主事から言われるであろう。
(4)本号の「英語教育時評」は卯城祐司氏(筑波大学)の担当で、「フィンランド・メソッド」について書いているが、日本人がフィンランドではそういう教育が一斉に行われているという印象を持ちがちなのを戒めている。フィンランドの生徒は必ずしも英語を話すのはうまくないこと、学力が高いのは若い教育大臣による制度改革が功を奏ししていることなどの指摘がある。
(5)また、次のようにも述べてある。
「最近、綬業を見させていただくと、どうも『○○インプット』や『音読○○』など、誰かのコピー活動ではと思うことが多い。新しい情報や指導法は一度整理し、活用する場合は自分たちの文化や教室に合うように租借していきたい」(p. 41)
この号の特集も、こういうことを前提にして読むべきであろう。先行研究から容易に推測できるようなリサーチに時間と労力をかけて、肝心な「自分の生徒を知ること」がおろそかになるような愚は避けなければならない。(浅 野 博)

【私の記事に対するコメントは原則非公開扱いとさせていただきます】

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