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浅野:英語教育批評:「放送で聞く日英語の問題」について

Posted on 2010年10月13日

「放送で聞く日英語の問題」について
(1)今の若い人たちは、変な英語まじりの歌を聞いたり、歌ったりするせいか、「ことば」への感覚がマヒしているのではないか。よくわからなくても“フィーリング”で処理をしてしまうようだ。これでは、外国語を学習しても身につくはずがない。こういう言語環境では母語でさえもおかしくなってしまうのではないだろうか。自省を込めて、いくつかの表現をいくつか考えてみたい。

(2)NHK のラジオでは、「24 時間いつでもどこでも安心をお届けする NHK 」というようなことを言うが、「安心を届ける」とは、どういうことであろうか。ある地域に大雨洪水警報が出ていることを伝えれば、その地域の人たちは避難して自分の身の安全を守ろうとするであろう。それなら、「皆様の安全を守るための情報を伝える」と言うべきだ。昔、「おいしい生活」というコピーで話題になったコマーシャルがあったが、報道では奇抜な表現は避けたい。

(3)地震に関する報道では、「この地震による津波の心配はありません」と言うが、ちょっと抵抗感がある。「津波はありません」と断言できないのなら、「津波は起こらないでしょう」でよいのではないか。英語の放送では、There is no possibility of tsunami to be caused by this earthquake.というのを聞いた記憶がある。広辞苑にある「(明日は)雨が心配」は確かに日常耳にするが、余り拡大して使わないほうがよいと思う。

(4)夏の頃は天気予報で、「本州付近は大きな夏の高気圧に覆われるでしょう」とよく言っていた。「本州付近」ではなく、「本州およびその周辺」と言うべきではなかろうか。英語では、例えば、”in London and in its vicinity”(ロンドンおよびその周辺において)といった正確な言い方をする。電車内や駅の放送では、「入口付近は混み合いますから車内におつめ願います」と言うから、「入口付近」は、「入口およびその近く」といった印象を与えることも確かだが、こういう“あいまいさ”は議論や学術的な記述には向かない言い方だ。

(5)政治関係の報道では、「(財務大臣は、円高は望ましくない)との認識を示した」というのがある。これは、財務大臣自身が言うのではなくて、政治記者などが後から記事にする時に使うようだ。英語であれば、The President recognized that he had misunderstood the situation.(大統領はその状況を誤解していたと認めた)のように直接的な言い方をする。

(5)対談などでは、「それは[なに] ですよね」とか、「そこまで言うと[あれ]ですから」と言ったりする。前後関係や状況でいろいろなものが、「なに」とか「あれ」に当たる状況依存の表現で、政治家が多用する。英語にも、”I’ll tell you what.” のような言い方があるが、(いい考えがあるよ)とか(そのわけはこうなんですよ)と具体的な話を始めるきっかけに過ぎない。日本語の場合は、「そこまで言ってしまうと、マスコミが騒ぎだすだろうから」といった含みがあったりして、真意は明確ではない。そうかと言って、「なんでも選挙」「なんでも多数決」「なんでも公開」といった単純な思考で政治をやられては、困るのは国民だと思う。(浅 野 博)

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