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浅野:「英文法の指導」を考える

Posted on 2011年9月14日

(1)「英語教育」誌(大修館書店)の 2011 年10月号の特集は、「新指導要領下におけるコミュニカティブな英文法の指導」であるが、私にはどうもこの題名は分かりにくい。“コミュニカティブな英文法”とは何であろうか?「コミュニケーションのための文法(指導)のことだ」と多くの英語教員は答えるであろうが、では、“コミュニケーションに役立たない文法(指導)”は何であろうか?「それは“読むこと”だ」と答えてよいのであろうか、と疑問は尽きない。そこで、最初の記事、村野井 仁「新学習指導要領における文法指導―文法指導に関する5つの誤解―」を読んでみた。

(2)「誤解その1:教科書や文法書に書かれている文法規則を一つ一つ記憶するのが文法学習である」とあるが、これは本当に“誤解”であろうか?中学1年生に「主語が三人称単数の場合は、動詞に (e)s が付く」といった説明はしないであろうが、この規則は“知っている(覚えている)”必要はあると思う。規則は覚えていなければ使えないからだ。

(3)この号の [編集後記] に、「母校のラグビー部の試合を応援しに行っているうちに、ラグビーのルールがわかってきた」として、「英語を使うための規則(ルール)である文法も、学習者のタイプによって、事前に理解してから使った方がストレスがないこともあれば、使いながら必要に応じて学んでいくと定着が早いこともあるでしょう」と述べてある。これなら私にも分かるし、賛成できる。

(4)私の知る限り、中高生に「英文法の授業は好きですか?」というアンケートに答えてもらうと、「嫌い」が圧倒的に多い。野球にしろサッカ―にしろ、「まずルールブックを覚えろ」と言われたら、そのスポーツに興味を失うのは当然であろう。興味の持てる物語を読んだり、友人にメールを書いたりといった動機づけのある活動をしながら、規則を学び、身に付けていくのが能率的な学習法なのだと思う。したがって、他の記事にある「『フォーカス・オン・フォーム』アプローチ」とか、「『タスクで補助する』文法指導のすすめ」などは、指導法の問題であって、無理に“文法指導”と結びつける必要性はないと私は考える。

(5)久保野雅史「何がどうして苦手なのか?:教科書を分析して学習歴の把握を」という提案は大いに賛成できる。この記事は、Which book is mine? とか(21.3%)、Turn left at that shop. (17.9%) などの語順選択問題の正答率が極めて低いと報告している。これは文法指導の問題ではなく、基本的な英語表現に慣れさせ、覚えさせるドリルの不足を意味しているのだと私は思う。「英語を話せる日本人の養成」ばかりを考えて、英語学習の基本を忘れている責任は誰にあるのであろうか?

(浅 野 博)
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