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浅野:「プロジェクト型学習」を考える

Posted on 2011年10月18日

(1)「英語教育」誌(大修館書店)の 2011 年11月号の特集は、「『プロジェクト型学習』とは何か」であるが、まるで IT 関係の論文のように、新しい用語を知らなければついて行けない感じがするのである。現在の中学校用検定教科書には、「プロジェクト」という用語で、指導内容を示しているものがあるが、画一的な指導を要求する指導要領に基づく検定教科書で、多彩で独創的な指導が容易に出来るとは思えない。

(2)最初に、2番目の記事、佐藤芳明(慶応大学訪問講師)「『プロジェクト型授業』とは何か」を読んでみた。慶応の湘南藤沢キャンパスでは、「『プロジェクト英語』は、2008年以来の伝統」とあって、そう古いことではないようだ。もっとも、このキャンパスの特徴は、開設当初の1990年頃からマスコミにもよく取り上げられた。研究者たちが、共通目的を達成するために、“プロジェクト”を組んで研究に当たっていることも、かなり知られていたと思う。

(3)しかし、「英語教育で、なぜ“プロジェクト型授業”なのか」ということが私にはよく分からない。どんな教科でも、学校全体として教育効果を上げようとしたら、教員たちの協力体制が必要なのは当然であろう。20年以上も前に、多くのAET が各校に配属されるようになって、”team-teaching” の必要性が声高く叫ばれた。それと「プロジェクト型授業」はどう違うのであろうか。今回の特集の記事には、「プロジェクト型授業のほうが効果的」ということが書いてあるものが多く、「それでは今まで実践してきたことは何だったのか」という疑問を拭い去ることが出来ないのである。

(4)東野裕子(西宮市立高木小学校主幹教諭)「小・中学校の9年間を視野に入れたプロジェクト型外国語活動」には、次のような記述がある:「『プロジェクト』とは、児童が課題を見つけ、あるいは、与えられ、それに対するゴールを決定し、そのゴールに向けて共同で活動する、まとまりを持った一連の授業の集合体を指す。いわば、『課題解決を行うゴールを持った単元』と解釈してよい」。この解説も分かりにくいが、今まで英語教師はこうしたことを全く実践しなかったのであろうか、と私の疑問は尽きないのである。

(5)教える側としては、指導技術は常に研究しなければならないし、外国における実践にも注目すべきであろう。しかし、これまでの方法を十分に反省し、どういう方法が、他の方法より優れているかをよく検討しないで、新しい用語で指導技術を論じるのは無益であろうと思う。“指導者たちが、共通教材を用いながらスクラムを組んで学生に対応する”といったことはこれまでの大学教員が最も苦手としてきたことではなかろうか。したがって、大学教員の説く「プロジェクト型授業」など信頼できないと私には思えるのである。

(浅 野 博)
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