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浅野:「言語と文化」を考える(その1)

Posted on 2011年11月2日

(1)私たちが学校で英語を教える場合は、「英語と文法」とか「英米の風物、文化」といったことは意識にあるが、「言語と文化」という関連から考えることはあるだろうか。もちろん、そういう分野を得意とする教員もいるであろう。現に、「言語文化」という用語もある。しかし、この用語がいつ頃から使われたかを知る人は多くないように思う。学習指導要領(中学校英語)は、総括目標で、「外国語を通じて言語や文化に対する理解を深め…」と述べているが、この場合の“文化”をどう定義しているのかは明確でない。(小学校5・6年用の外国語指導要領にも同じような趣旨の記述がある。)

(2)斎藤武生『言語文化学事始』(開拓社、1983)という本がある。「事始」は「ことはじめ」と読み、「新しく仕事を始める」という意味だ(この書名にはルビが振ってある)。つまり、「言語文化学」をその始めから、説き起こしているのだ。そして、この用語は、日本では1936(昭和11)年にすでに用いられたと著者は言う。また、この書物の書かれた 1983 年頃は、大学の「言語文化学科/ 学部」などの新設が盛んになり始めていたが、「言語文化学」の研究そのものは、それほど熟していなかったことも著者は指摘している。

(3)そこで、いろいろ文献を探っているうちに、私は「語用論」に行きついた。1970年代には比較的新しい学問分野だったが、私はまず“語用論”という訳語が気に食わなかった。“誤用論”と聞こえるからだ。“言語運用論”とか“言語実用論”のような訳語も提案されたらしいが、定着しなかった。英語の原語は、“pragmatics” で、S. C. レヴィンソン(Levinson)著、安井稔・奥田夏子訳『英語語用論』(研究社出版、1990)の訳者序文には、この当時(1990)は用語としての“語用論”は英語でも日本語でも定着しているが、「その中身の定義に関しては諸学者の意見が一致しているわけではない」と述べてある。

(4)もっと新しい“語用論”を知ろうと、町田健 編・加藤茂広 著『日本語語用論のしくみ』(研究社、2004)を読んでみた。これは、5巻からなるシリーズの1冊で、内容は多岐にわたっていて、単純に“言語と文化”の関係を論じているわけではない。ただし、「会話にはなにか原則があるのですか」(p. 52)のような問題提起があって、その“原則”について多くの文献を根拠に詳細に説明している。その“原則”の適用が、自分に当てはまるかどうかを考えると、“日本文化”というものの影響を考慮せざるを得ない。当然ながら、言葉の使用は“伝統的文化”とも密接に関係しているのだと思う。(このテーマ続く)。

浅 野 博

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