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「達人の英語学習法」から学ぶこと

Posted on 2012年1月18日

(1)昔から言われたことですが、“語学の達人”と言われた人たちの学習方法を知ることは、とても役に立ちます。“自己流”というのは失敗が多いからです。そういうわけで、「英語教育」(大修館書店、2012年2月号)の特集が、「英語達人の学習法」ですから、参考になる記事が多いのではないかと期待して読んだのですが、かなりがっかりしました。全く存知上げない執筆者たちが、それぞれご自分の経験談を書いているものだったからです。

 

(2)そういう話は全く無用だとは言いませんが、それなら特集のタイトルは、「私の英語学習法」くらいにしておいてもらいたいと思いました。最初の記事は、安河内哲也(東進ハイスクール講師)「英語なんてやればできる!」です。現在は、英語の成績が上がらない生徒にも、こんなことを言うのは慎重に考えなければならないでしょう。生徒を甘やかすという意味ではなく、成績が悪い理由は、個人個人で様々だからです。「壁にぶつかった時、先生はこうやって乗り越えたよ」といった話は、生徒を良く知っている教師にして始めて言えることだと思うのです。

 

(3)安河内氏は、「英語での苦労は第三言語習得にも役立つ!」と書いていますが、多くの生徒や英語教員がそういう学習ができる環境にあるかどうかということも問題にしてもらいたいと思います。教育委員会などの“管理体制”が強くなってきているからです。学習指導要領も「外国語」と言いながら、実質は「英語だけ」です。また、安河内氏は、最後の方では、「私自身は、あらゆる現場での、音読訓練教育の普及教育活動や、 TOEIC  SW、BLUTS、VERSANT などのスピーキングテストの普及活動を全力で続けていきたいと思っています」と書いていますが、“共闘を”と呼びかけるのでしたら、もっと親切で配慮のある書き方をしてもらいたいものです。こんなテスト用語を知っている教員はあまりいないと思います。

 

(4)他の執筆者の記事も、斎藤兆史「昔の達人たちの英語学習」以外は、同じような執筆者の個人的学習論です。石黒弓美子(同時通訳者)「螺旋階段をのぼるように」、中邑光男(関西大学)「夜の目も見ずに、昼寝もせずに…」、金子靖(研究社編集部)「英語学習オタク道を邁進」といった調子です。念のために繰り返しますが、私は“有名人の体験談でなければ役に立たない”と言いたいではなく、学習者のことをよく知っている教師が、その学習者に向かって“自分の勉強法”を語るべきだと考えているだけです。

 

(5)個人の勉強方法は、それこそ“十人十色”で、無数にあるでしょう。そのどれをお手本にするかは、学習者がいろいろと試行錯誤を重ねながら見つけ出すべきものです。そういう意味では、参考にならないとは言いませんが、特集のタイトルの“英語達人”は相応しくないと思うのです。

 

お断り:今回から、私の「英語教育批評」の文体を、私の他のブログに合わせて「です調」に変更いたします。

 

(浅野 博)

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