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“英語教育と最新機器”の関係を考える

Posted on 2012年2月16日

(1)「英語教育」誌(大修館書店)の2012年2月号の特集は、「これからのICT 活用教育」です。まず「ICT とは何だ?」と思う英語教師もいると思います。特集ページの扉には、ICT (Information and Communication Technology) とありますから、見当は付けられます。そこで、米田謙三(羽衣学園高校)「これだけは知っておきたいICT を活用した授業に役立つ基本用語集」を読んでみたのですが、どうしてこういう記事を特集の最後に掲載するのでしょうか。しかも2ページで15項目しか解説してないのですから、とても特集記事を読む助けにはならないのです。

 

(2)上記の「用語集」では、“クラウド”は、「データを自分のパソコンや携帯電話ではなく、インターネット上に保存する使い方、サービスのこと」とあります。2012年2月14日の産経新聞は、第1面で「企業・個人 進むデータのクラウド化」という見出しにしていますが、その下にはさらに大きな活字で、「すべては『雲』の中」と半分茶化したような書き方をしています。しかし、“フェイスブック”には詳しい解説を載せています。一般的な読者を対象にした場合は、こういう配慮が必要であろうと思います。

 

(3)「英語教育」誌の記事でも、「このくらいのことを知らなければ英語教師ではないぞ」と言わんばかりの上から目線ではなく、経験の浅い教師や、英語教員志望の(情報工学など素人の)大学生などを視野に入れた書き方をしてもらいたいのです。インターネットに関する用語は、“日進月歩”でも言い足りないくらい急速に変化していますから、「知らなくて当然」と考えて説明して欲しいのです。もちろん、「教員は新しいことを学ばなくてよい」という意味ではありません。

 

(4)“揚げ足取り”になるのを承知で、特集記事の中から気になる点を幾つか指摘します。冒頭の吉田広毅(常葉学園大)「ICT活用英語教育のいま」は、「授業で使うメディアを選ぶ際、一番大事なのは、どのような装置機器を使うかということではなく、どのようなメッセージを使うかということです」と書き出しています(p. 10)。 “装置機器”も普通の用語ではないですが、この場合の“メッセージ”は、何を意味しているのかはっきりしません。単に“教える内容”ではないように思えます。この雑誌の性格上、用語は新旧に関わらずに、「自分はここでこういう意味で使う」ということを明確にしてもらいたいのです。その点で評価できるのは、下山幸成(東洋学園大)「デジタルを活かす?アナログを活かす?」という記事です。

 

(5)唐沢博「ICT を段階的に導入するテクニック――Clear and present gadget 「今そこにある機器」を使って――」の副題の英語はよく分かりませんが、教材用のCD とCD プレーヤーがあれば、ICT 教育になるということでしょうか? さらに、「電子辞書は映像に対応しないので、iPod classic / iPod touch / iPad 2が便利です」(p. 15)とありますが、これで、“指導用テクニック”の説明なのでしょうか?

 

(6)文科省の教育政策として、“教科書のデジタル化”とか、“電子黒板の活用”とかを進めているのは確かですが、そのための予算措置はどうなっているのでしょうか?“話せる英語教育”のために、新しいことをこじつけているような気がします。また、学校で携帯電話やパソコンの利用を実践できたとしても、携帯電話の持参を禁止している学校もありますし、親の反対もあります。この特集では、そういう現実問題に一切言及がないのは、とても気になる点です。文科省の方針にはすべて賛成という立場での特集には“異議あり”と言いたくなります。(浅 野 博)

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