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「英語を使うお仕事」とは?

Posted on 2012年7月17日

(1)「英語教育」(大修館書店、2012年8月号)の特集は「英語を使うお仕事」です。私はまずどうして「お仕事」という言い方をするのだろうと不思議に思いました。実際にある仕事をしている人に向かって、「お仕事大変ですね」と言うのは自然でしょうが、余計な”ていねい語”は、取りようによってはバカにしている感じさえします。”受験”という普通の用語が、”お受験”と言うと、特殊なニュアンスを帯びることが参考になると思います。

 

(2)内容のほうですが、様々な英語を使う職業の人たち21名が執筆しています。例によって、“ないものねだり”をさせて頂くと、英語という言葉とは関係のない職業上の留意点を述べているものが多いのです。例えば、天野恭子(元日本航空客室乗務員)「人間を知るために」は、グローバル化した時代の人間交流の心構えであって、英語に限定した問題ではないと思います。パイロットは仕事上英語が必須でしょうが、同じパイロットでも、ロシア人ならロシア語で、中国人なら中国語でコミュニケーションを行う必要性も大きいでしょうから、その心構えは英語に限定したものではないはずです。

 

(3)清水裕美(テレビ朝日)「コミュニケーション手段としての英語」は、まだ電子メールなどの無い時代に、ファクシミリで交渉した苦労話ですが、外国語でビジネスの交渉をするのは難しいことはよく分かります。私としては、そういう一般論ではなく、具体的な実例が欲しいと思いました。例えば、「自分はこういう英文を書いたが、次のように直された」のように。

 

(4)山口広樹(外資系金融機関ディレクター)「〈発信する力〉が必要です」も、英語教育では嫌というほど繰り返されてきた問題です。英語教員に金融関係の英語表現がどのくらい必要かはまた別の問題ですが、苦労話だけではどうも新鮮な印象が残りません。せめて高校生が使っている英語教科書に目を通してそのレベルを考えながら、どういう表現が通じるか、通じないかなどを示してもらえれば、英語教員にももっと役立つ記事になったであろうにと思いました。

 

(5)最後の記事は池田香代子「苦手な英語を訳すということ」で、何の話かと思ったら、ドイツ語の翻訳者が、苦労して英語の本2冊を訳して出したことがあるという、苦労話というより“ぼやき話”なのです。しかも、「それも20年も前の話ですから、ここに記録しておきます」と述べています(p. 39)。「英語教育誌にそんなものを残されても、参考にもなりません。翻訳するということは、どんなに得意な外国語のものを訳すとしても、どなたも大変な苦労を重ねているはずです。それでこそ、「なるほどよく分かる」と感心させられる訳文になるのだと思います。池田氏の記事の意図はどうも私にはよく分かりません。

 

(6)全体的に今回の特集記事は、ねらいが曖昧なものが多いのは、執筆者の責任というよりも、編集者の意図が明確でなかったことによるのではないでしょうか。英語教員や英語教員志望者が、「なるほど勉強になった」と思うような企画で、本誌がより多くの読者に読まれることを期待したいと思います。(この回終り)

(浅野 博)

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