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「マイ・ベスト教材」を考える

Posted on 2012年8月15日

(1)「英語教育」誌(大修館書店)の2012年9月号の特集は、「教師の『英語力』を磨くマイ・ベスト教材」です。しかし、私にはどうもこの特集のタイトルはピンときませんでした。「教材」というのは、『明鏡国語辞典』(大修館書店)の定義にあるように、「授業や学習に用いる材料。教科書・副読本・標本・模型など」となっているからです。強いて解釈すれば、「この場合の“教材”は“自分で自分の英語力をもっと強くする英語教師のための教材”」ということになりますが、回りくどい言い方です。私ならば、“英語教員が英語力を増強するための具体策”とでもしたいところです。

 

(2)最初の記事は、田邉祐司「英語のサビを落としてくれる教材たち」で、明らかに、「英語教員が自分のサビついた英語を学び直すこと」を前提にした記述です。ちょっと気になるのは、「教材たち」という言い方です。少し前までは、「動物の子供たち」などと書いても、「“たち”が使えるのは、人間についてだけだ」と叱られたものです。古くは、神様や貴人にだけ用いられたからでしょう。『明鏡国語辞典』は、「人・動物の複数を表わす」としていますが、「人・動物以外に使うこともある」と注意しています。ただし、「教材たち」は私には違和感があります。(田邉氏の名前が私のパソコンでは正確ではないことをお断りします。)

 

(3)田邉氏の記事には、NHKの開発した「英語実力判定テスト」の紹介がありますが、私はこのテストは、センター入試の問題と比較するために視聴したことがあります。ただし、NHK のものは会話が廻りくどくて不自然で、出題のための作為が感じられるものです。センター入試の問題にも多少そういう傾向がありますが。(版権の都合でここに引用はできませんので、関心のある方は、//eigonomori. com/quiz/ で検索してみてください。)

 

(4)西澤正幸(新潟県立三条高校)「『文法力』を磨く」は、参考文献も多く、参照もしやすいと思いますが、やはりインターネットの利用にも言及があります。西澤氏は、衣笠忠司『Google 検索による英語語法学習・研究法』(開拓社、2010)を紹介しています。「英語教育」誌の別冊にも「インターネットの利用」を解説したものがありますから、それらも紹介したら良かったと思います。インターネトの利用は、慣れていない人にはとても厄介で、うまく行かにことが多いものです。親切すぎるほどの解説が必要です。

 

(5)いずれにしても、記事の執筆者がそれぞれ言及するのではなくて、「インターネットを利用するマイ・ベスト方法」ということで、複数の執筆者に依頼すれば、もっとすっきりした特集になったであろうと考えます。雑誌の記事は締め切りに追われますから、執筆者がお互いに連携することは無理なのは承知していますが、読者の読みやすさを考慮するならば、もう少し改善すべき点があるのではないかと思うのです。

 

(6)胡子美由紀(広島市立早稲田中)「『英語で授業力』を磨く」で、やっと私が最初に問題にした「マイ・ベスト教材」の意味がはっきりしてきた感じがします。ただし、「指導力とは何か」「マネジメント力(人間力)とはどういうものか」といったことを論じていますから、これだけで特集を組む必要があるように思えます。今回の特集記事としては守備範囲が広がり過ぎていますので、「特集」はもう少し視点を絞って提供してくれませんか、というのが一読者としての私の希望です。(この回終り)

(浅野 博)

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