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「『英語教育』誌(大修館書店)批評」(その3)

Posted on 2013年11月20日

(1)「英語教育」誌(大修館書店)2013年12月号の特集は、「授業に活かす言語学」で、副題は、「文法、語彙、発音、作文、テスト作成から家庭学習まで」と大変欲張った特集です。“欲張った”というのは編集者や執筆者に失礼な言い方かも知れませんが、私は、「学習者の視点が軽視されていないか」という懸念をこの長いタイトルを見た時に抱いたのです。

 

(2)冒頭の記事は、大津 由起雄(明海大)「英語教師が知っておきたい言語学とは?」です。大津氏の発言は常に論理性や説得力のあるもので、私は常に敬意を感じていますが、英語教師にとって、「なぜ言語学の研究の成果が必要なのか」を丁寧に解説しています。

 

(3)大津氏は、言語学は、(A)ことばの普遍性、(B)英語の個別性、(C)日本語の個別性の3つについての知識を英語教師が持つことが必要なことを教えてくれるという趣旨のことを述べています。英語教師は生徒の訳した日本語がおかしいと、「そんな日本語があるか」と叱ったりしますが、その理由は説明しないことが多いように思います。センター入試の正解表だけを与えるようなもので、学習者は恐らく疑問や不満を感じていることでしょう。

 

(4)一方、ビジネス英語を専門に教える英語教員は、「言語学などの説く理論など現実性がない」と、もっぱら体験したことを重視する傾向があります。特に非英語圏で商売のための英語を使う立場では、学問的な理論は役に立たないのは確かでしょう。しかし、教室で教える立場ではあまり極端な態度を取ることは学習者のためにならないことも知っておくべきだと思います。

 

(5)今回の特集では大津氏のもの以外に、それぞれの学問分野について、9名の執筆者が書いています。全てを取り上げるのは無理ですので、その分野だけを紹介させてもらいます。①語用論、②音声学・音韻論、③語彙意味論、④応用言語学(指導編)、⑤応用言語学(学習編)⑥心理言語学、⑦社会言語学、⑧脳科学、⑨理論言語学、の9編です。このように並べますと、学術論文集のような感じがしますが、どの執筆者も「授業に活かす」という特集のテーマを意識して、教室での指導を視野に入れた解説をしています。したがって、読者は自分の関心の薄かった分野について学べることが多いと思います。

 

(6)私の手元に、佐久間 淳一『はじめてみよう言語学』(研究社、2007)という書物があります。本書の帯には、「『たこ焼き』が『焼きたこ』でないのはなぜだろう?」と書いてあります。この例で分かるように、本書は日本人の身近な言語問題について述べているものです。3人の人物(言語学者の先生、高校3年生の“はづき”、及び日本人の母親を持つフィンランド人“ペトリ”)の話し合いを通じて言葉の諸問題を解説している分かりやすく興味深い本です(“アマゾン”で検索すれば購入可能です)。

 

(7)中高生の教室では、教師は今回の特集記事や佐久間氏の本で得た知識を折に触れて話してやるといいと思います。生徒はそういう余談を期待以上に覚えてくれるものです。教師は“あまり欲張らずに”時に余談として、自分の知識を披露してやることが大切なのだと思います。(この回終り)

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