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「日英語ことばのエッセー」(その4)(タテマエとホンネ)

Posted on 2013年12月9日

(1)増原 良彦『タテマエとホンネ』(講談社現代新書、1984)という本があります。副題には、「日本的あいまいさを分析」とあるように、日本人の発言者や聞き手に潜む心理的な“あいまいさ”を追求している書物です。

 

(2)今回の猪瀬東京都知事が、医療法人「徳州会」から、「無利子、無担保で五千万円を借りていた」という話も、知事自身が弁明すればするほどホンネが読めるような気がしてきます。つまり「選挙に勝つための資金だった」というのがホンネだと思うのは当然のように思えます。ただし、その真相を追求できるのは警察や検察ですが、それさえ信用出来ないという不気味な世の中になってきています。

 

(3)猪瀬都知事の問題についての都民の反応は、「意外と冷静」と報じているマスメディアがありました。この辺りも日本人の“あいまいさ”なのでしょう。「都知事選挙をやりなおすのは面倒だ」というのがホンネなのでしょうか? それとも、「都知事には誰がなっても同じだ」という諦めであれば、“タテマエ”と“ホンネ”の他に、“アキラメ”というのを日本人の心的態度として付け加える必要があるでしょう。

 

(4)日本語にはもともと“表向き”という言い方があって、『明鏡国語辞典』(大修館書店)では、「公的なこと」の他に、「世間に対して取りつくろった表面上のこと」という意味が示してあります。したがって、猪瀬知事の弁明は、正にこの後者の意味にぴったりです。

 

(5)増原氏の書物では、和英辞典や『広辞苑』などの日本語辞典の“タテマエ”(主義・方針)と“ホンネ”(本心から出たことば)の説明を適切ではないと指摘しています(p.11 ~)。そして、この二つの用語の問題から、「宗教と道徳の落差」、「平均人と絶対人」といった日本人論を展開しています。その内容は興味深いものですが、ここでは割愛して、今日的な政治問題を考えたいと思います。

 

(6)「特定秘密保護法案」が参議院の委員会で強行可決された翌日の「東京新聞」の第一面には、「民主主義の否定」「議論尽くさず、ごり押し」といった大きな活字が目立ちました。マスメディアにも「右翼系」から「左翼系」まであって当然なのかも知れませんが、私は「報道する姿勢」はまず冷静であるべきだと考えています。それぞれの新聞社や放送局の主義は、“社説”とか、“編集者のコラム”とかで、テレビであれば、特集番組を組んで問題提起をしたらいいのです。

 

(7)他の例で言えば、大きな地震が来ることを十数秒前に予告出来る装置がありますが、ある時はNHK の女子アナウンサーがとてもあわてた声で、「地震が来ます!テーブルの下などに身を隠してください!」と叫んでいました。これでは、聞く人の恐怖心をあおるばかりです。難しいことでしょうが、“報道者”はまず冷静であるべきなのです。

 

(8)ラジオの場合は、テレビの場合のように文字だけを画面に流すことが出来ませんから、放送内容を中断しなければなりません。それは仕方がないとしても、あるときは、震度5弱の地震があって、NHK ラジオの放送が40分以上も中断されたことがあります。その間、続々と被害状況が入って来るならともかく、そうではなくて、同じような内容(“震度3はどこの地域”のような)をNHK ラジオが繰り返していたことがあります。その間、TBS などの民放は通常の番組に戻っていました。

 

(9)非常事態には誰でもあわてるものです。しかし、報道関係者は日頃から、様々な事態を予測して訓練しておくべきでしょう。首都圏では自治体が“災害マップ”を作って公表もしています。「そんなものを公表されると、土地代が下がる」といった反対論もあるようですが、こういう場合は、個人の利害ではなく、住民全体の利害を優先させるべきでしょう。(この回終り)

 

(前回の補足)前回の「日英語ことばのエッセー」の(8)で私は次のように書きました。

“一億総白痴化”という造語は、評論家 大宅 壮一(1900-1970)によるものですが、その後彼は“一億総評論家時代”という言い方もしている、と小林氏の本では指摘しています(p. 29)。

この記述について、旧友の宇佐美 昇三さんから、「私の調べたところでは、大宅 壮一氏が、“一億総白痴化”と言ったという根拠は無い」旨のご指摘がありました。私は単純に『現代“死語”ノート』という書物にあったことを信じてしまったのですが、宇佐美さんは、大宅氏の書いた物を丹念に調べられて指摘されているので、信頼できるものです。ここに感謝の意と共にご紹介して、ブログの読者の方々にご了解を得たいと思います。

なお、宇佐美氏は、艦船の研究家でもあり、NHK のプロデューサーとしての長い経験と、その後上越教育大、駒沢女子大で教えた経験をお持ちです。以上

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