言語情報ブログ 語学教育を考える

2.「JACET4000」の改訂

Posted on 2010年4月3日

「JACET4000」は1967年と1971年の資料が参照の中心になっていて,古く,早く改訂しなければならないと思った。毎年多くの研究発表において,「JACET4000」に基づいて語彙検定を行ったと聞くたびに,私は困ったな,恥ずかしいな,と思うようになった。

しかし,すでに「JACET4000」を作った人たちの多くは教材研究委員会を去り,委員会は関心の中心をリーディングに移していた。なんとか新しい委員を説得して,改訂にかかろうとしたが,とてもできそうもなく,本体はそのままにして,1)使用頻度順の5段階表示,2)品詞名を入れる,3)意味・機能による14分野別の情報,の3種の表を加えることにした。
●『JACET基本語4000』(大学英語教育学会,1993)

★教育用には少しの改善でも役立つが,研究には根本的な改訂が必要★

これによって学習者はたいへんに勉強しやすくなったが,語彙表本体の古さはいっこうに改善されなかった。これを研究に使う方々からは,資料について,改訂の見込みについて,何度も質問があった。JACET会長のK先生からも「改訂してくれませんか。なんとかして」と何度か言われた。しかし,関東地区の約50名の研究企画委員を眺めてもみなさん多忙で,
また関心がほかにあり,とても無理だと思わざるを得なかった。
(村田 年)

浅野式辞典:「そんたくせいじ」(忖度政治)

Posted on 2010年4月2日

ある政党の大物の言動は「忖度(推測)」しないと理解できないようで、「忖度政治」と言われる。「腹芸」の難しい言い方。高校生に尋ねてみると;
A:昔から政治には金の損得がつきものだよ。
B:(漢字を見て)付け届けを要求する政治家のこと。
C:フランスに「恐怖政治」というのがあったよね。似たようなものじゃないの。(当たらずとも遠からず。)

1.旧版の「JACET4000」

Posted on 2010年3月31日

JACETがこのような,日本人として習得すべき「英語の単語リスト」を出したのは,今から30年ほど前の1981年であった。「JACET基本語第1次案」として,一般の大学生が習得すべき約4000語が掲載されていた。

私は1会員としてこの表を見て,たいへんに興味を持った。この4000語の単語リストを,旺文社の『豆単』や『でる単』,『全英連高校基本英単語集』,あるいは各種英和辞典の「重要基本語」と1語ずつ突き合わせてみると,「JACET4000」の新鮮さは目を見張るばかりであった。

さっそく比較対照のレポートを持って,編集母体の「JACET教材研究委員会」に入れていただいた。そこで清川英男先生(和洋女子大学)から,語彙リストの見方,語彙リストの作り方の手ほどきを受け,先生の知識のすべてを吸収しようと努めた。その結果,私の頭の中で3000語,4000語のいろいろな語彙表が生きてぶつかり,つながるようになり,たちまちにしてこの分野が私の専門のひとつになった感があった。

改訂された「JACET基本語第2次案」(1983)は広く世の中に受け入れられ,大学や高校の先生方に広く用いられ,大学入試問題の語彙の検定にも使われた。また,英語教育,応用言語学の研究の語彙検定にも,いずれの語彙表よりも多く用いられた。
(村田 年)

浅野:英語教育批評:「『発問』という指導技術」を考える

Posted on 2010年3月29日

(1)「英語教育」(大修館書店)2010年4月号は、「『発問』で授業が変わる!」という特集をしている。「発問」と「指名」は授業をする際の基本的な指導技術だから、新学年を迎えるに当たって再考してみるのは意義のあることだ。この特集では、10の記事があるが、大きく分けて、「日本語での発問」と「英語での発問」の実例がある。後者は、今後増えるであろう「英語で進める授業」の見本にもなるが、両者の基本的な問題となると思われる点を取り上げてみたい。
(2)「英問英答(question-answering)」は、大正から昭和の初期にかけて日本の英語教育に大きな足跡を残した H. E. Palmer が唱道したもので、『英語教授法辞典 新版』(三省堂、1982)に詳述されている。その解説では、目的を「新文型の定着を目指す練習」に重点を置いているが、もう1つ、なるべく既習の構文や単語を用いて行う Oral Introduction(口頭導入) の内容理解を確認するという大きな目的がある。
(3)特集記事でも、教科書の新文型の練習と本文の内容理解を目的にしたものが多い。ただし、英語だけで新しい内容の理解を確認することには、かなり無理があるように思う。例えば、「過去形の受身」の導入と練習で、”This is a koala. It is seen in Australia. などから、(恐竜の絵を示して)”How about this?”と問い、”It was seen on the earth.” を導く例がある(p. 19)。
(4)“be seen” は「見られる」と理解できても、「生物が(生息して)いる」という意味まで推測させるのはかなり難しいと思う。中学では、多くの過去分詞が初出となるので余計に困難であろう。この記事の筆者も、まとめの1つに「発問より説明が適する場面を見極める」と書いている。ここは日本語で説明をしたほうが適している場面ではなかろうか。
(5)同じく中学2年の例として、次のような教科書の本文を扱う例がある。
Ratna: This is a photo of my sister.
Ken: Oh. What’s she wearing?
Ratna: A sari.
Ken: It’s beautiful.
Ratna: Thank you. She likes wearing a sari.
(下線部は新語)
この内容についてWhat is beautiful? といった問いをするわけだが、不自然さは免れない。学習のための練習はある程度不自然さはやむを得ないが、答は ”A sari.” とするか、”The sari.”とするか迷うところだ。”wear” の進行形や動名詞との違いなども“できる生徒” ほど疑問に思うであろう。
(5)言葉の理屈は、学習者にはすっきりとしないことが多い。ましてや、外国語として学ぶ場合はなおさらである。疑問に思いながらも、あきらめないで学習経験を積み重ねていくのが最善の解決方法だ。“あきらめさせない”ことも教師の指導方法にかかっている。(浅 野 博)

【私の記事に対するコメントは原則非公開扱いとさせていただきます】

英語学習語彙リスト(JACET8000)作成プロジェクト

Posted on 2010年3月28日

はじめに

大学受験には英単語の暗記は必須で,4000語が必要だ,いや少なくとも5000語は必要だ,などと言われた。辞書の1ページ分の単語を覚えたら食べてしまった,などという話も昔はよく聞いた。近年では単語信仰は相当弱くなったが,それでも受験単語集は売れている。

そのような中で,辞書・語彙の研究者,辞書の製作者ばかりでなく,広く大学の英語関係者に知られた「単語リスト」は「JACET8000」であろう。冊子が売れているばかりでなく,受験参考書の出版社,大阪大学を初め旧帝大系の大学,青山学院大学などいくつかの大学の英語教育に「JACET8000」のシステムが採用され,今現在もさらに契約の話が進められている。

私自身が参加した学会の大会,研究会などで,「この研究は「JACET8000」によって検定した語彙を用い…」といったことを言う発表者は多い。優れた語彙表であるとともに,やはりJACET(大学英語教育学会)が出版しているという点がものを言っているのであろう。
(村田 年)