言語情報ブログ 語学教育を考える

生徒の「際立つ勉強離れ」は止められるか  4.そもそも学習とは何か

Posted on 2009年10月30日

生徒の学力の国際比較においては,日本の成績は下がったとはいえ,まだまだトップレベルであるが,一方,勉強が好きか,理科・数学が好きか,といったアンケートになると,40ヵ国中最下位だそうです。また,以前完全に世界のトップであった人たちの35歳時における学力調査では,20ヵ国中,日本人は下から2番目に落ちてしまったそうです。日本人の学力は身についていなかったのでしょうか。

そもそも「学習とは何か?」日本人にとって「望ましい学習とは?」については,次の便で論ずるとして,もうひとつ二つ「学習」を考える示唆となるかも知れない事例を紹介しましょう。
 (村田 年)

浅野:英語教育批評:「指導目標と指導技術」のこと

Posted on 2009年10月29日

(1)「所さんの目がテン!」という番組(読売テレビ系)で、「速読」の問題を取り上げていた(2009年10月24日)。訓練を受けた人の読書の速度は、普通の人の数倍と驚異的だが、欠点は感情移入がなされないことだと報じていた。感動的な話でも、涙を流すことはないことを実験で示して、話の筋や事実関係は正確に把握しているが、内容に感情を動かされることがないというのである。母語による速読のことは、これまでも報じられていたが、弱点を指摘したものは、私には初めてのことだった。
(2)教材と感動に関連したことは、以前に書いたことがある。LL(語学ラボラトリー)の教材に、原爆の悲劇(原作は大野允子『かあさんのうた』)を語ったものがあって、その後に内容確認のための英問英答がついていた。いち早く本文の聞き取りを終えた学生はさっさと質問に答える練習をしていた。 LLの指導者はその状況をこっそり聞き取ることができるのだが、英語の得意なはずのある女子学生の声が全然聞こえない。問いかけてみると、「悲しくなって練習が出来ません」とのことだった。
(3)「気持ちが落ち着くまで待ちなさい」と指示したが、普通の授業ではいっせいに進めざるを得ない。LL授業の長所はこういうところにもある。つまり、個別的に、自発的に学習が出来るのである。最近のコンピュータ授業でも可能なことだが、どうもいっせいに進める傾向があるように思う。しかもコンピュータは多機能だから、学習者の気も散りやすいことは注意を要する。
(4)英語教員に「望ましい題材」を問うと、「感動的な読み物」という声がかなり強い。極端な場合は、キング牧師の演説などは、「内容が分からなくても生徒の目が輝く」とまで言う人もいる。英語の授業は英語の基本的な力をつける」ということを度外視しているのではないかと心配になる。最近のコミュニケーション重視から、「会話教材」への要望も強いが、いずれにしても、教育目標と生徒の実態、環境などを十分に考慮して扱わなければならない。
(5)高校のあるクラスなどは、「多読から速読へ」といった目標を実現しようとしているものもある。Rapid Reading の文献まであげて論じる教員もいるが、日本の一般的な英語学習者が母語話者を対象とした「速読」を短期的な目標とするのは危険であろう。目標と指導技術の関係を十分に考慮して実践したい。(浅 野 博)

生徒の「際立つ勉強離れ」は止められるか  3.幼稚園における一斉学習

Posted on 2009年10月28日

3月号の『英語教育』誌を見ると,Amy Chavez さんが興味深いことを書いています。チャベズさんはある小学校で英語を教えているのですが,3月から4月は日本人の格式ばった行事好き(formalities)の洪水に見舞われるという。

卒業式,入学式,退職送別会などであるが,幼稚園でもちゃんとした卒園式があり,園児たちはきちんと整列し,行進し,着席する。来賓が重々しく封書を取り出して,挨拶を読み上げる。園長先生も「オタマジャクシを捕まえたらすぐに放してやりなさいよ!」といったお話ではなくて,「この幼稚園で学んだことを決して忘れないで下さい!」といった講話をなさる。卒園児は在園児に向かって一斉にさよならスピーチを大声で唱和し,続いて在園児が一糸乱れず大声で応える。(まるで父兄席のお母さんからリモコンで操作されているみたいに見えるという。)

このきちんとする,一斉に大声で唱和するというやり方があまりにも英米の文化と異なっていて,チャベズさんはたいへんに気になるようです。普段の授業でも園児たちはGood Morning! から始まってすべて,大声で一斉に答える,これが不思議でならないようです。

きちんと,一斉に,真面目に,答えはみな同じ,この日本の文化的傾向には大きな問題があるかも知れません。
 (村田 年)

浅野式辞典:「ちさんちすい」(治山治水)

Posted on 2009年10月26日

 ダム建設の目的はこれだと言うけれど、「ダムダムダム…」と早口で言うと「ムダ」に聞こえるのは小学生でも知っている。この四文字熟語の意味を音声だけで中学生に尋ねてみた珍答は:
A:遅刻はいけないということじゃないの。
B:産地直送の野菜。
C:その土地の飲み水のことだよ。

生徒の「際立つ勉強離れ」は止められるか  2.小学生における大きな格差

Posted on 2009年10月26日

一方小学生を見ると,教材を厳選して分量を減らし,学習事項の上限をきつくした,いわゆる「ゆとり教育」影響からか,公立校進学への不安が広がり,私立小学校,私立中学校受験が過熱している。うちの子供たちが小学生のときは,私立中学受験はクラスに数名だったが,今ではクラスの大部分が私立中学受験の勉強をしているという。小中学校入学時という早い段階での選別によって,そのあとの教育が大きく分かれる。伸びる子,まったく目標のなくなる子など,大きな格差ができ,これにどう対応したらいいかといった問題が出てきています。
 (村田 年)