言語情報ブログ 語学教育を考える

昔、食べる人、今、作る人?

Posted on 2010年11月1日

今回は、(15)Mark cooked a meal for his wife.で、「君、作る人、僕、食べる人」というCMが30年以上前になったと思われたりしませんかと、書きましたが、1970年代半ばに、授業中や剣道の試合観戦中に耳にしたことを、今でも覚えている次第です。
(15)Mark cooked a meal for his wife.において、両義性に係わる箇所が特定できれば、この両義性は難しくはないのですが、すぐにわかる一方に対して、他方がすぐにはわからず、辞書を引いてわかるというようなことは、有り得るでしょう。
では、(15)Mark cooked a meal for his wife.で、両義性に係わる箇所は、どこでしょうか。両義性に関連するということは、両義性に関連しそうもないものを、消去すると残るでしょうから、それが前置詞forだとは、何とか辿り着けるのではないでしょうか。更に、すぐにわかる一方とは、次のAでしょう。
A: Markは奥さんのために食事を作った。
前置詞forと言えば、第一義的に、「~のために」の意味というのは、わかり易いですね。
 さて、他方は、如何でしょう。おわかり難ければ、辞書のお世話になるとして、ほぼ第二義的に、前置詞forが、「~に代わって」と何となくはわかり、次のBのように解釈されるでしょうか。
B: Markは奥さんに代わって食事を作った。
Aにしても、Bにしても、「君、作る人、僕、食べる人」ではなく、その逆の「僕、作る人、君、食べる人」になっています、30年以上の時の経過でしょうか。ただし、「僕、作る人、君、食べる人」がよりはっきりしているのは、Aの方で、Bの方が、「僕、作る人」であっても、必ずしも、「君、食べる人」とは限らないという、傾向はあるにはありますね。
 次回は、次の(16)で、日本語に直訳しただけでは、依然両義性が詳らかにならないままで、それもあって両義的箇所の特定が重要でしょう。
(16)People in Atlanta know the width of the airport.

2.英米の講義

Posted on 2010年10月30日

最初に紹介した「海外大学英語講義集」を視聴してもわかるが,英米の講義はわかりやすい。初めにテーマや講義の意義や大方の結論が示され,その結論に至る道程が順々に示されていく。途中で休んで,聴き手の反応を見る,簡単なクイズを出して視聴者の参加を求めたりする。

講師の発声は明瞭で,ことばを尽くしてわからせようとの気持が伝わってくる。一部の日本の先生のように説明不十分な用語を散らしておいて,聞き手に適当なものを受け取ってもらおうなどという講義ではすぐに質問攻めに会うだろう。

アメリカはもちろん英国でも今では外国人教授はたいへんに多い。日本人の教授もたくさん活躍している。これらの教授は発表(プリゼンテーション)と教授法の講習を受けて,できる限り明晰な英語で講義しようと努めている様がわかる。

聞くところによると,外国人教授の訛りのある英語をキャッチしようとアメリカ人の学生たちが一生懸命になっていたりするそうだ。内容があり,わからせたいとの熱意があれば,学生の間に不満は出ないようだ。外国人スタッフが3割を超える大学が増えている現在,英米の学生たちもいろいろな英語に慣れるのに懸命だというのもおもしろい。
(村田 年)

浅野式辞典:「うちこ」(打ち子)

Posted on 2010年10月28日

 音声だけを聞くと、蕎麦やうどんに詳しい人は、「打ち粉」のことだと言う。麺を作る時に加える粉のことだ。いじめにあった小学生だと、「いじめっ子」を連想する。「打つ子」だ。実際は恐ろしい詐欺の言葉で、「パチンコの必勝法を教えるから、“さくら”にならないかと勧誘して、1日数万円稼げると持ちかける。承諾すると保証金を要求されて、ひどい目に会う。聞き慣れない言葉には注意しよう。

日本の講義,英米の講義(上)

Posted on 2010年10月27日

1.はじめに
私の古巣の千葉大の元同僚の土肥允先生が「海外大学英語講義集」を編んで下さった。古代ギリシャ・ローマの哲学者を思わせる風貌の デイビッド・クリスタル(David Crystal)先生の名調子の講義に魅せられ,また,1000人を超える学生たちがだれひとり居眠りすることなく,惹きこまれ,つい発言の手を上げてしまうマイケル・サンデル(Michael Sandel)教授など,どれもおもしろく,何度も拝聴した。ちょっと下記をクリックして聞いてみて下さい。http://english-chiba-u.jp/youtube/menus/humanities.html

それでは日本の大学の講義はどうだろうか。最も豊かな公開講座は東京大学であろう。大学を代表する講義,シンポジウムなどが「俯瞰講義」という名称のもとにたくさん公開されている。講義はいわゆる総合科目で,4,5名の教授が大きな1つのタイトルのもと,代わる代わる講義を展開するものが多い。いずれも十分聴きごたえがある。ただし,ソフトは YouTube ではないので,Realnetworks社のReal Player(無料版)というソフトを入れる必要がある。このソフトを入れると,慶応大,早稲田大,明治大,上智大などほかにも多くの大学の公開講座を聴くことができる。http://ocw.u-tokyo.ac.jp/
この「Tune U」で世界の800大学,35万以上の動画ファイルが視聴できると解説にある。

もちろんほとんどの大学はなまの公開講座も開いているので,実際に出かけて行って,講義をじかに聴くこともできる。無料のものが多いし,新聞広告などでも探すことができる。

東大が最も盛んで,ほとんどすべての教員の講義が視聴できるようになっている。建前上はだが。実際には「建設中」であったり,不十分な短い(声だけで映像のない)講義だったりするが。同時に「講義ノート」を詳しく見ることもできる。昔ながらのわけのわからぬ講義(の一部)と講義ノートから,目をみはるばかりの優れた講義と講義ノートまである。

京都大学のように YouTube で視聴できる大学もある。http://ocw.kyoto-u.ac.jp/
また,湯川秀樹のようなノーベル賞学者の講義をインターネット上で探して聴くこともできるし,その論文の手書き草稿とその修正過程などを見ることもできる。湯川の集中講義が本になっていて図書館で読める。朝永振一郎が,読んだ教科書・参考書に書き込んだメモのあとを見ることもできる。出かけて行けば,湯川のコロンビア大学での講義ノート1,200枚を見ることもできる。

時間があったらパソコン上で世界の,あるいは国内のあちこちの大学を訪問してみるのもいいだろう。大学に限らず,病院などを訪問して,病気と治療についての情報を得ることもできる。例えば英国では次のものはお薦めだ。スクリプト(文章)もついている。
 http://www.nhs.uk/video/pages/MediaLibrary.aspx
 http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp1009040
  (以上は,南かごしま日高病院内科の前田正彦先生より)

また,英米の放送局を訪問して,ニュースやインタビューや討論,講演を楽しむこともできる。放送の全文のスクリプトが出ていて,それを見ながら聞くことができる場合もある。http://www.voanews.com/english/portal.cfm
このサイトでアメリカだけではなく,世界中の様々な国のニュースなどの視聴が可能だ。どうぞお楽しみ下さい。
(村田 年)

一字違いの両義性

Posted on 2010年10月26日

  (14)The boss had his bag stolen.の両義性を。最も劇的と申し上げましたのは、結果的に一字違いになるからです。
 まず、 (14)The boss had his bag stolen.の両義性に係わるのは、have + 目的語 + 過去分詞という構文に隠されています。have + 目的語 + 過去分詞という構文は、広義の「使役」を表し、更に、<受身用法>と狭義の<使役用法>があり、これらの用法が、両義性に反映されます。
 次に、両用法を見ていきましょう。<受身用法>は、広義の「使役」と言っても、話者から見れば、不可抗力であったりしまして、発音上、過去分詞が強く発音され、~れるという意味になります。逆に、狭義の<使役>は、文字通り、話者が使役を促しまして、発音上、haveの方が強く発音され、~せるという意味に対応するのです。
 以上から、<受身用法>が、Aの解釈で、狭義の<使役>が、Bの解釈になります。
A: 上司は、自分のかばんを、盗まれた。
B: 上司は、自分のかばんを、盗ませた。
Bの方が、考え難いのでしょうが、ある映画を見ておりましたら、ホテルにイチャモンをつけるのに、クロ―クに預けたかばんを盗ませる場面があるではありませんか。
 次回は、次の(15)で、「君、作る人、僕、食べる人」というCMが30年以上前になったと思われたりしませんか。
(15)Mark cooked a meal for his wife.