言語情報ブログ 語学教育を考える

5.日本の教育の反省点

Posted on 2011年1月3日

以上,日本の大学の先生の講義の改善の方向付けとして,欧米の教育を一方で見てみたが,以下率直にわれわれが取るべき具体的な改善策をいくつか述べてみたい。

1) 暗記中心の学習を調べ学習の方へ少し方向修正する。情報を取捨選択する,調査する,問題を解決する,書く,話す,論議する,交渉する,共同作業する,発表する。このような勉強がもっと多くなるようにする。また,各科目の領域を超えた「総合的な科目」を導入して,ちょっとお茶を濁すのではなくて,その課題を解決するために,力を総動員するような学習を多くしたい。

2) 教師は指導過剰にならないようにしたい。小テストであっても簡単に○×をつけない。コメントは言葉で,遠慮がちに小さめに書く。(日本の小学校の先生が○や×を大きく書くことに欧米の先生は驚く。生徒がきれいに使っているノートを遠慮会釈なく汚して,また,ずかずかと生徒の心に入っていってと。)すぐに正解を与えない。あるいは正解なしで終わる。

3) 生徒を上から目線で見ない。先生だから仕方がない面もあるが,指導のし過ぎは生徒のやる気をそぐ。勉強に関係のないことはできる限り注意しない。すぐに答えを示さない。いっしょに考える。生徒の関心はあらゆることに発展するので,高校では禁止事項は大幅に減らし,「政治デモ」に参加,学校の運営に対する意見,服装などあらゆることの自由化なども「いっしょに考える」対象事項とする。知識や経験がつくまで意見は言うべきでない,知識のある人の前で,ない人が発言してはいけない,といった雰囲気を作らない努力が,大人に,特に先生に必要だ。

4) 客観テストをできるだけ少なくする。英語のテストでも(  )に適語を入れよ,ではなくて,その生徒の考える力,表現力,読解力に直接につながるようにする。

5) 点数を出して比べることをやめる。個人と個人を点数で比べない。クラスを平均点で比べない。学校の順位などを点数で表さない。それぞれ別の良い点,改善すべき点があるとして,それを評価する。

6) フィンランドへ教育視察に来た日本人の団体の質問は,主に,どうしてこれほどの教育効果をあげたか,そのためには何が一番重要であったか,といったように,質問のほとんどが過去を向いていた。

ところが,同じようにショックを受けたドイツやイギリス,オランダ,フランスの場合,移民が入ってきて,これからが難しくなる,これからおたくはどうするつもりなんだ,ともっぱら将来への対策へ質問は集中したという。

われわれも過去に拘るのを減らして,もっと将来を話し合いたいものだ。

日本の教育は,江戸時代の寺子屋は飛びぬけて優れていたし,明治から昭和にかけての追いつけ追い越せ教育もそれなりに優れたものであった。しかし,これからどうしたらいいのか。「多文化共生」に向かう,もうすぐの将来はどうしたらいいのか,良い先生,良い授業を生み出すのも,このへんと絡み合って複雑に,いっそう困難になってくるであろう。(村田 年)

「誤りありますか、解釈するか、訂正するか」②:

Posted on 2011年1月3日

(2) People had a information on the actress.(誤りがあれば、訂正しなさい)
 前回と同様に、誤りありますか、即ち「誤りがあれば、訂正しなさい」に対して、A:誤りなし、解釈する、を先に検討しますと、前回と異なり、今回は誤りが見当たりまして、Aではなく、B:訂正する 誤 → 正、解釈もする、の方でなければなりません。昔、旺文社の大学受験ラジオ講座で、「実践英文法ゼミ」を毎週水曜に担当していた西尾孝氏は、別の受験参考書で、ポイントの一つに、furnitureやinformationが不加算名詞uncountable nounで、数えるなら、chalkやpaperのように、a piece of (three pieces of)を付けることを挙げていたことを思い出しましたが、特にinformationの件数を問題にしなければ、不定冠詞は不要になりまして、(2)の解答は、次の②になります。

② aを省く〔または、a → φ〕、 人々は、その女優についての情報を得ていた。

 問題には、第一印象とは異なるということが多く、意外な方が正解であることが多いのでしょうけれども、(2)の第一印象とは何でしょうか。それは、a informationという部分において、a information → an informationにしてしまうことで、informationが不加算名詞とわかって場合ばかりでなく、「不定冠詞は、母音の前では、aではなくanが用いられる」にのみ拘ってしまう場合も、この「第一印象」に陥ったと言えるのではないでしょうか、もっとも、こここそが、解(回)答者と出題者の知恵比べなのかもしれませんけど。尚、この稿をパソコンのソフトで「スペルチェックと文章校正」をかけましたら、2つかかって、1つ目がa information → an informationで、2つ目がa information → informationで、今シリーズは、「スペルチェックと文章校正」と、似て非なるのか、「非にして似」なのか、微妙ではあります。
 余談ではありますが、the actressからだれを連想なさいますか、野球選手ジョー・ディマジオと結婚したことがある女優が連想されますが、夫婦で来日の折り、福岡のあるファレスではオニオン・グラタン・スープが大のお気に入りだったそうです、その女優についての情報に関しては、また別の機会に譲りましょうね。
 次回は、次の(3)を解きましょう。
(3) The pupil’s picture was very beautiful.(誤りがあれば、訂正しなさい)

「誤りありますか、解釈するか、訂正するか」①:

Posted on 2010年12月31日

(1) This magazine sells very well.(誤りがあれば、訂正しなさい)
 誤りありますか、即ち「誤りがあれば、訂正しなさい」が、2通りの回答に繋がり、A:誤りなし、解釈する、または、B:訂正する 誤 → 正、解釈もする、の二者が、可能性としてありますから、否、可能性がありますけれども、Aの検討は、Bより先であるべきなので、まずAの可能性を検討しましょう。「売る」という意味の動詞sellは、日本語の売ると同様に、主として他動詞として用いられるのが通例ですが、通例ではないにしても、異例と言われるよりは異例ではなく、「売れる」という意味で自動詞としても用いられますので、(1)の解答は、次の①の通りです。

① 誤りなし、この雑誌は大変よく売れる。

 (1)の解答が①である、これで、回答としては、充分なのですが、誤 → 正という訂正ではなくても、言わば正 → 正という訂正、即ち書き換えの可能性があるかどうかも、検討してみましょう。次の①’も可能性がなくはありません。

①’ sells → is sold、この雑誌は大変よく売られる。

①がある以上、①’ではなく①が、(1)の解答ですが、①と①’の対照比較も、有意義で、①’のように訂正(書き換え)しますと、(i)is soldの方が、by ... という動作主agentを暗に含意する点、そして、(ii)is soldの方で、「完了」という相aspectが包含される点が、相違点として生じることになります。
 次回は、次の(2)に取り組みましょう。
(2) People had a information on the actress.(誤りがあれば、訂正しなさい)

4.短所を補う努力が必要

Posted on 2010年12月31日

15歳児の国際学力テスト(理科数学,TIMSS)では,日本はいつも第1位であったが,10年後の35歳時における科学技術に関する成人調査では,18ヵ国中13位で下位グループであったという。ここからわかることは,日本の理科・数学の教育は定着率が低いということであろう。

計算や因数分解といった基礎訓練が勉強だとして,まったく生活や将来との関係を考えさせない教育のひずみが出たのだと推定できる。

一方PISAテストで世界一になったフィンランドにも悩みはある。フィンランド大使館員からフィンランドでの教科書編集者に転じた北川達夫氏によると,フィンランドの中学生対象に「日本に関する作文コンクール」をしたら,応募者の作文があまりにもひどいので,フィンランド人と日本人の審査員一同たいへんに驚いたという。あまりにも字が下手,つづりの間違い,文法・語法の間違いなどがたいへんに多かったという。先生たちの研究会でも,また,父兄からも基礎教育の重視をとの要望が強く出て,2004年に学習ガイドラインを改定したが,一度あちらに振った振り子はなかなか戻らないようだ。
(村田 年)

シリーズ第2弾「誤りありますか、解釈するか、訂正するか」、全20回を、次回から開始します

Posted on 2010年12月28日

 前回までの両義性シリーズに続く、第2弾「誤りありますか、解釈するか、訂正するか」全20回を、次回から開始しますので、よろしくお願い申し上げます。
 今回は、今度のシリーズをご説明しますと、誤りありますか、即ち「誤りがあれば、訂正しなさい」が、2通りの回答に繋がり、A:誤りなし、解釈する、または、B:訂正する 誤 → 正、解釈もする、の二者から、一方を選択して頂くのです。
 具体例を、お示ししましょう。例文XとYについて、「誤りありますか、解釈するか、訂正するか」を考えることにするのです。

X: Everyone wishes the data were true.
誤りなし、だれもがその資料が真実であればなあと願っている。
Y: Everyone wishes the data was true.
was → were、だれもがその資料が真実であればなあと願っている。

動詞wishの内容を表すthat節では、仮定法が用いられ、意味的に仮定法過去とも考えられ、dataは複数であることから、wereが誤りなく、wasはwereに訂正されることから、XとYは、それぞれ、直後の回答が解答なのです。尚、dataは単数にも使われると、名古屋駅前の予備校講師など、間髪入れず、ご指摘なさりそうですが、dataを単数とすれば、YもXの直後が解答になりますけれども、次回からの20問にはこのような解答になるものは除いてあります。ただし、誤りなしでも、訂正することが可能なことはあり、これを書き換えると言うのでしょうけれども、訂正の回答になった場合、問題の英文自体が誤りなしかどうか、(再)確認をすべきでしょう。
 次回は、次の(1)で、誤りありますか、即ち「誤りがあれば、訂正しなさい」が、2通りの回答に繋がり、A:誤りなし、解釈する、または、B:訂正する 誤 → 正、解釈もする、の二者から、一方を選択して、ご回答下さい。
(1) This magazine sells very well.