言語情報ブログ 語学教育を考える

委員会の新たな方向(1985年4-6月)―(49)研究プロジェクトの組み方(1)英語総合教材作成プロジェクト

Posted on 2010年3月1日

1985年4月の段階で委員は8名に減少した。相談し,すでに研究冊子で提案していた一般大学生のための「英文法総合教材」の刊行を中心にいくつかの活動計画を決めた。

私は委員会そのものを変えないと,この先仕事を進めていくことはできないと考えて次の提案をした。(すでに古い委員は2,3名のほかにはあまり出てこなくなっていた。)

1)委員を拡大する。常時出席の委員に加えて,不定期出席の準委員,意見だけを寄せる準委員,特に北海道から沖縄までの地方の準委員をつくる。
2)連絡は郵便によって(主に委員長が)詳しく行う。

当時はまだ各委員会活動は本部である関東に限られていて,支部に拡大するようなアイディアはなかった。疑問視する声が多かったが,やらせていただくことにした。

★ものごとが減少傾向のときは,慣例に従ってはいられない★
(村田 年)

教材委員会の最盛期から委員減少へ―(49)研究プロジェクトの組み方(1)英語総合教材作成プロジェクト

Posted on 2010年2月26日

JACET教材研究委員会は,その頃すでに3種類の英語購読用教材を出版し,研究冊子『英語購読用教科書のあり方』を1981年に刊行し,その中で「JACET基本語第1次案」(一般の大学生が習得すべき約4000語の単語リスト)を提案し,英語教育の世界に大きな話題を提供していた。

その翌年私はこの委員会に入れていただき,「基本語第2次案」作成に参加した。教材委員会はこの「2次案」を1983年に発表し,この研究を中心とした活動が評価され,「1984年度JACET賞」をいただいた。この頃までが教材委員会の最盛期で,委員の数も多く,たいへんに活発であった。

その後1984年度には「基本語第2次案」の実際の教材へのカバー率など,この語彙表のReadability(可読性。それでどこまで読めるか)の検証を行って一段落した雰囲気になった。委員長のM氏を初め,主だった委員はそれぞれに多忙を極め,委員を辞める,定期的に出席できないといった届けがあり,まだ新参であった私が委員長にされてしまった。
(村田 年)

英語総合教材作成プロジェクト―(49)研究プロジェクトの組み方(1)

Posted on 2010年2月23日

●はじめに
私たちJACET教材研究委員会が1987年に出した一般大学生用の英語教科書は出版と同時にどんどん注文が入り,初版が43刷り,すぐに改訂した2版が26刷り,慎重に直した3版が56刷りと出て,印刷がとても間に合わないほどで初年度の大学生用テキスト4000冊のうちのベストセラーだと業界誌に書かれ,読売新聞の取材を受け,Daily Yomiuriに大きく掲載された。

地方から講演の依頼やシンポジウムへの誘いを受け,英語教育雑誌から原稿依頼があったりして,英語総合教材のひとつのモデルを示しえたと思った。

初年度に爆発的に売れたばかりか,10年,20年の長い年月にわたって多くの先生方に使われ,ドイツ語の出版社と思われていた三修社が,英語の出版社として大学の英語教師に広く認知されるというおまけまでついたと思われた。

それではこのプロジェクトを,発端を中心に見てみたい。
(村田 年)

浅野:英語教育批評:「英語嫌いをなくすこと」を考える

Posted on 2010年2月23日

(1)「英語教育」2010年3月号(大修館書店)は、「英語を嫌う生徒にどう向き合うか」という特集をしている。どんな教科でも、その教科を嫌う学習者がいたら、その原因を探り、対策となる指導技術を工夫し、実践するのは当然と思われていよう。したがって、こういう特集を歓迎する教師は多いと思う。しかし、私は「英語」の場合は、少し違った視点が必要ではないかと考えている。大げさに言えば、テロの問題と似ているのだ。
(2)「無差別に殺人をするテロはけしからん」という見解には反対しにくい。そして、その根拠地を除去するために、アメリカが、イラクやアフガンに攻め入るとなると反対論も強くなるが、そもそも「なぜテロが起こるのか」という根本問題が抜けている議論がほとんどではなかろうか。
(3)「英語嫌いがいることは困ることだ」「だから英語を好きにするような教え方を実践しなければならない」には反対しにくい。しかし、これは英語を学ぶ、または教えるのは当然ということを前提にした発想だ。「なぜ英語なのか」は問題にならないのであろうか。もっとも、この問題は30年以上も前に、中津遼子氏が『なんで英語やるの』(文春文庫、1978)で提起したことがある。しかし、このタイトルの問いに対する答は出ていないと私は思う。彼女の疑問は、「なんでそんな中途半端な教え方や学習しかできないのか」という問いかけだったからだ。
(5)この「特集」の中で、他と違った発想をしている記事は、横田禎明「英語嫌いに『英語を楽しませようとする試み』が成功しないメカニズム」だ。「原因を突き詰めよ」とか「『楽しませる』より『分からせる・成績を上げる』」といった小見出しは同感を呼ぶが、あまりにも「私は英語が大嫌いだ」ということを強調していて、後味が悪いのである。大学受験生に英語を教えていると言われる筆者は、立派なホームページを開設していて、そこでも「英語嫌い」の自説を繰り返し主張している。教師にはいろいろなタイプがあってよいと思うが、私にはどうもついていけない感じがする。
(6)英語が好きで得意な教師の「私について来なさい」と言わんばかりの強引な授業も好まないが、ある歌手の歌を聴いた後で、「私は歌うのが大嫌いなのです」と言われたような後味の悪さを、横田氏の姿勢に感じるのである。それは現役を引退した者との世代の違いのせいだと言われそうだが、そうならば、若い現役の先生方の見解を聞けるのを待つよりない。(浅 野 博)

【私の記事に対するコメントは原則非公開扱いとさせていただきます】

研究プロジェクトの組み方(1)

Posted on 2010年2月20日

はじめに
昨年の9月に私どもの英語辞書研究会が世界に問うた英文論文集が大きな賞である「JACET賞 学術賞」に輝いた。この機会に,応用言語学・英語教育学における研究のやり方について,特に共同研究のプロジェクトの組み方について,私の小さな経験の一端を書いてみたい。外国語教育に当たっている方々だけでなく,どのような仕事に携わっている方にも参考になるように心掛けたい。

私程度の者が「研究法」について書くというのはお笑いだ。が,どうしてそんなことを思いついたかと言うと,以前「研究発表の仕方」というエッセーを書き,これが予想外に好評で,もっとも多くの返事をいただいた。今でもお会いしたときにそのテーマに触れる方がいて,世の中には研究発表の仕方や研究論文の書き方といったハウツーものは多いにもかかわらず,求めている人がたくさんいると,改めてわかったからである。

それで,拙い経験であっても多少の参考になるかも知れないと思い,書き残すことにした。話は相当大袈裟で,どうしても自慢話めいてくる。笑いぐさであろう。

私が関わってきた応用言語学・英語教育学の分野では個人で行う研究活動も大事だが,それ以上に重要な活動に同好の士を募ってプロジェクトを組むことがある。研究結果を実際の外国語教育に役立てることがこの分野の目的と言ってもよいほどなので,個人よりも団体で行う研究の意義が大きいのがわかろう。

プロジェクトを組んで,科研費補助を申請するのが普通のこととなった最近では,大きなプロジェクト,優れたプロジェクトがたくさん見られるし,パソコンとメールを使って,以前とは比べものにならないほど楽に仕事を進めることができるようになった現在,時代遅れの話になるかも知れない。

これから紹介する最初のものは,郵便で連絡するもので,まったく古いやり方だが,方法の基本のところはいっしょではないかと思う。

  1)英語総合教材作成プロジェクト
  2)英語学習語彙リスト作成プロジェクト
  3)英語辞書研究会の立ち上げ

参加したプロジェクトの中のこの3件について,この順で説明したい。3件のプロジェクトはすべて,大枠ではJACET(ジャセット。大学英語教育学会)という大きな学会の中のひとつのグループの活動として組織されたが,外からの入会もあり,任意の,自由な組織で,校務・給料とは直接の関係がない,参加しても,しなくてもいい仕事という点に特徴がある。

★人は直接給料・任務に関係ないところで評価される場合も多い★
(村田 年)